劇場公開日 2023年11月17日

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「正当ボンド映画を継承する素晴らしき出来栄え」007 スカイフォール pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0正当ボンド映画を継承する素晴らしき出来栄え

2022年1月30日
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もしも本作に対して「伝統的007映画ではない」と断ずる声があるならば、それこそ007の表面しか見てこなかったのではないか?と問いたい。

コネリー&ムーアの創り上げたボンドの伝統。フレミングが生み出した原作。そして、冷戦末期〜終焉後のリアリズム。
それらすべてに折り合いをつけるという非常に高難易度の課題を、このクレイグボンドは見事に成し遂げてくれたと思うのだ。

カジノロワイヤルで一旦脱ぎ捨てて見せたボンド映画の伝統。しかし、監督&脚本始め制作スタッフは過去作品を少しも侮ってはいない!
むしろ、21世紀に生まれ変わらせつつもどれだけ伝統を尊重出来るか、その限界に挑んでくれたと思う。
ブロスナン&クレイグで育った世代にとっても本作の秀逸さに異を唱える事は出来ないであろう。

コネリーボンドの女性対応は一見ただの「女好き」に見えてしまうが、それは同時に「女性に対する酷薄なまでの冷徹さ」も表している。決して心を許すことなく、あくまでひとときの彩りと割り切っているからこそ、軽く女性を口説けるのだ。コネリー&ムーアのボンドは実は女性に対して完全に一線を引いているのである。軽口は冷たさの裏返しでもあるのだ。
今回もコネリーよろしく、しっかりセヴリンやイヴとやる事はやっている。新旧のボンド像が見事に重なる。ただ、本作はそこをクローズアップしていない。敢えてカメラを向けていないというだけなのだ。

新生Qとのファーストコンタクトである美術館の絵画は「戦艦テレメール号」
海賊国家として成り上がった英国の黄昏を描く切ない作品だ。
21世紀における英国情報部とは所詮「腐っても鯛」に過ぎないのか?

否!断じてそんな事はない。
世界のデジタルテクノロジーがどれだけ進歩しようとも!
人間というのは、善と悪、白と黒の狭間を漂う存在だ。決して単純な二元論で割り切れやしない。1と0の間に身を潜め人知れず力を蓄えている敵に対抗するにはアナログかつアナクロな方法が有効な場合もあるのだ。

審問会のシーンは痛快だ。嫌味たっぷりの女性委員に糾弾される中、朗々とユリシーズを暗唱するM。
「来い!来い!シルヴァ!現実を知らぬ委員共に目にもの見せてやれ!」と思う間もなく、シルヴァ登場w

活躍するのはボンド1人ではない。ここまでは「出世して現役引退か?」と思わせていたマロリーがまだまだ腕が立つ事や熱いハートを持ち続けている事をチラ見せしつつ、舞台はボンドの生まれ故郷スコットランドへ。

Qが渡してくれた最新鋭指紋認証短銃はワルサーPPK !
(PPK/Sだけど、そこは許してね)
MI6公用車ジャグワァXJ(徳大寺か!w)から乗り換えるは、言うまでもなくアストンマーチンDB5 !
当然、機関銃は標準装備だ(笑)

ハイテクを駆使してMを執拗に追うシルヴァ。一方、ハイテク対応はQに任せてローテクで対抗するボンド。
Mが女王を頂く英国の象徴とすれば、シルヴァ(本名はティアゴ・ロドリゲスという設定あり)のいかにもなスペイン名は、かつての「太陽の沈まぬ国」7つの海の覇者スペイン無敵艦隊が、エリザベス1世の治世、キャプテン・ドレークやホーキンスらの英国艦隊に大敗を喫した歴史を思わせる。
ならば、ボンドはスコットランドが英国に帰順した暗喩でもあるのだろうか・・・。
Mからボンドへの贈り物は、ジョン・ブル・ブルドッグ?
故郷への執着を捨て去り、身も心も英国人としての再出発を認める証なのか。

本作のテーマは「復活」と「再生」であろうか。個人的にはタロットカードのNo20「審判」のイメージが本作に重なった。
新しいものを見事に取り込んでの、古きものの復活。
ラストシーン、往年ファンを泣かせてくれる。
見覚えのあるポールハンガー。ここはどう見ても例の秘書室。明かされるマネーペニーの名。
これまた見慣れた革張りの扉。そう、この奥にいる人物と言えば決まっている!
静かに流れる「ボンドのテーマ」
"With pleasure,M.With pleasure"の台詞と共に新しい任務を受け取るクレイグ・ボンド。
斯くして、原作では1917生まれのボンドは1968年生まれという新設定にシフトしながらもキレイな円環構成を完成させた。
そしてガンバレルと50thの文字。

カジノロワイヤル・慰めの報酬・スカイフォールの3作品が、ついに50年間、視聴者を悩ませた「007映画の伝統」と「原作やリアリティ重視」とのせめぎ合いに終止符を打ったのだ。

であれば、今後どれだけ007シリーズを続けていこうが、制作スタッフはこれまで程には苦慮せずに済むはずだ。
50周年記念作品に相応しい、見事な仕事をしてくれたと強く思う。

pipi
Kazu Annさんのコメント
2022年7月19日

絵一つまで目が向けられた、素晴らしいレビューですね。
随分と勉強になりました。有難うございます。

Kazu Ann
NOBUさんのコメント
2022年1月30日

負けないで!

NOBU
NOBUさんのコメント
2022年1月30日

今晩は。
 お掛けする言葉がありません・・。
 けれども、少しづつのご回復を遠き三河から祈っております。
 pipiさんの、映画愛溢れる該博な知識溢れるレビューは読みたいです。
 何時いつまでも、読みたいです。
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 今作は、ハビエル・バルデムの存在感が凄かった事を良く覚えています。軍艦島でのシーンや、ボンドの生家での大爆発シーン。
 大迫力でありながらも、ハビエル・バルデム演じるシルバの哀しみが見事に描かれていて・・。そして、Mの死。
 若き、Qの登場も軽やかに、今作はダニエルボンドシリーズの中でも、好きな作品であります。(皆、好きですが・・。)
 ついでに、映画館で座った席まで覚えています。私は、ど真ん中のやや、いや、かなり前の席で見るのが好きなのですが、この頃は私が住む街でも007であれば、6割方埋まっていたので、いつもと違う席で観たのですが、それが妙に鑑賞に会っていて・・。
 これから、たまーに、劇場の端っこで見たりしようかなあ・・。
 ご回復を、心より遠き三河から、祈念いたします。

NOBU
kazzさんのコメント
2022年1月30日

PiPiさん、コメントありがとうございます。
「白熱」とは…、また古い映画をご存じですねぇ!マザコン&バイオレンスの古典(?)ですかね。内容はよく覚えていませんが。
シルヴァ役のバイデムのネチッこい演技が、私にあんなレビューを書かせちゃいました。
それにしても、PiPiさんのレビューの造詣の深さには感服いたしました!

kazz