「好きで好きでたまらないから。」ソウル・サーファー ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
好きで好きでたまらないから。
私的にイチオシになりそうな作品で、とにかく驚いた。
ちなみにサーファーじゃない自分が、なんでこの作品に
そんな思いが入ったのかというと、身近にサーファーが
いたからなのだが、この主人公がサーフィンを心から愛し、
どんなに波が好きで好きで堪らないかが溢れ出す作りに
こちらもどうしてか…涙が溢れてきてしまったのである。
実話の映画化、しかし主人公のべサニー・ハミルトンは、
なんて愛らしく人間的にも素晴らしい女の子なんだろう。
地元や海外ではすでに有名人なのらしいが、私はまったく
存じ上げなかった。もとより彼女が人気者になったことが
片腕を失くしてからだというのだからそれもスゴイ。成績が
物語るのは、ハンデなど微塵も感じさせないライディング。
さすが両親ともにサーファーで、幼い頃から家族皆で波に
親しんできた一家というだけあり、生活の中にサーフィンが
存在する。毎日波を見て、見ては乗り、乗っては考えて、
いかにうまく乗りこなせるかを楽しむことが彼女の日常。
…しかし運命とは、本当に皮肉なものである。
私にはよく分からないが、どう考えてもバランス力が必要、
更にパドルなど、両手両腕をいかにも使うスポーツだと思う。
身体に備わってきたバランス感覚と、波乗り特有の感性を
巧く引き出すことに成功したから今の彼女があるのだと思う。
それはひとえにもふたえにも彼女を育てた両親や家族、友人
の豊かな愛情の賜物、それに感謝し、またサーフィンをする
ことに熱意を燃やす前向きな人間性にも多分に影響される。
とにかく観ていてエキサイティングな気持になれる作品だ。
思春期の女の子が、これだけの事故に遭えば心の傷は大きい。
サーファーとして大活躍を果たすはずだった、矢先の惨事。
彼女がどれほど周囲に恵まれていても、自身が相応の覚悟と
忍耐力を持ち合わせていなければ、挫折して当たり前の世界。
ところが。「好きだ」ということは、これほどまで人間を強くも
優しくもするエネルギーを生み出すということに感嘆する。
彼女がアドバイスを求めたのは、ボランティアの世界だった。
津波被害を受けた村を訪ねた彼女は、海をを怖がる地元の
子供達にサーフィンを教え始める。大丈夫。怖くないよ!は
自分への応援メッセージだったとも思える。楽しむことを
最優先に考えられるようになった彼女は、大好きな波乗りを
周囲の子供達に伝承することができるようになったのである。
…思えば彼女は、海やサメを憎んではいなかった。
比べるのはどうかと思われるかもしれないが、
日本で起きた大震災の津波被害、多くの土地や家が流されて
しまった三陸沖の住民の方々が当時インタビューに答えていた。
彼らが口にしたのは、私らは海を憎んだりしてないよ…だった。
私らの生活は海があるから成り立ってきたもの。海から沢山の
魚や海藻を獲らせてもらって生きてきたんだから、こんなことが
あっても、決して海が怖いなんて思わないよ。復興したら、
また海に帰って漁を続けるんだ…と語る姿に、TVの前で私は
涙をボロボロ流した。海が好きだから、またここに戻りたい。
自然災害とはいえ、人間には考えられない猛威力を震われて、
どこに怒りを向けたらいいのか分からない惨状でのこの言葉。
べサニーが海に向けた想いと重なる、と思った。
映画公開に向けてのインタビューで彼女がこう言っていた。
「私は片腕を失くしたことを皆に不幸だと言われるけれど、
私にとっての不幸とは一生サーフィンができないことなのよ」
映画に出られて嬉しかった、と笑う彼女が最高に美しかった。
(好きこそものの上手なれ。これからも最高のサーファーでいて)