「少なくとも劇映画としては駄作」ソウル・サーファー ニックさんの映画レビュー(感想・評価)
少なくとも劇映画としては駄作
原作を忠実に再現した結果だからなのかわからないが、非常にドラマチックさに欠ける作品だった。
一応ストーリー上の起伏はあるといえばある。
たとえば序盤、サメに腕を食われた主人公が、
がんばって再び波に乗るという展開がある。(言わずもがなだが)
しかしこれが本当に、この字面通りの展開でしかない。
事故の光景がフラッシュバックすることもなくすんなり海に入り、
波にうまく乗れなくなってしまった事実も何のその、打ちひしがれる暇もなく
たゆまぬ努力でその日のうちに克服してしまう。
これで感動するのは不可能に近い。
とにかく全編に渡ってこんな調子で、物語上障害となりうるポイントは、
時には主人公の天才的頑張りで、時には納得しがたい理屈で、時にはほぼスルーされながら、なんのカタルシスもなくどんどんクリアされていってしまう。
なんなんだこのベストキッドからワックスを抜いたような味気ない展開は。
あとは謎の演出や人物描写もひどい。
前述の展開の中にあるシーンで、ベッドに横たわったとある人物がサメに襲われる悪夢を見て飛び起きる、というシーンがあるのだけど、普通、これは主人公にやらせるべきでしょ。
なぜ一緒に泳いでた友達の方なんだ。
べっどの足下から徐々にカメラが上がっていくという謎のタメ演出もあって、最終的に友達の顔が映った瞬間は、思わず「えっ!?」って言ってしまったわ…
それから主人公の親父。
娘を乗せた車にマスコミがハパラッチよろしく群がってきたとき、激怒した親父が車を爆走させてマスコミを引き剥がしたのはいい。
それが大した距離でもないのに何故かマスコミが追いかけてこないことも、今時どうかと思う「カシャ!カシャ!」みたいなカメラカメラしたカメラ音も、気になったがまあ許そう。
しかしそのすぐあとの別のシーンで、「マスコミの取材を受けよう」ってアンタ、一体どういう了見だ。
いくら交換条件で義手がタダでもらえるとはいえ、マスコミから娘を守ったさっきの親父とこのオッサンが、どうしても同一人物には見えない。
そもそも、娘はそんなに義手欲しがってたっけ?
ここはたとえば、娘が独断で取材を取り付けてきて、家族、主に親父に反発されつつも義手の必要性を切実に訴える、とか、いろいろ他に手はあるだろうに…。
最後に本当に一番腹が立ったボランティアのシーン。
大会で負けたショックでサーフィンを辞めかけるほど落ち込んだ主人公が、スマトラにボランティアに行く。
そこで、津波のトラウマで海に入ることはおろか、笑うことさえ出来なくなった少女と出会い、その少女を癒すことで主人公も立ち直るみたいなシーンがある。
いやいやいや、そんな波打ち際で水パチャパチャやったぐらいで、トラウマ受けた少女が海に入るわけないだろ。
入っちゃうんだけどね!
せめて主人公の天才的サーフィンテクに少女が魅了されて…とか(それもどうかと思うが)の展開の方がまだしもだよ。
正直、津波を舐めてるとしか思えない。
他にも色々あるけど長すぎるからこの辺で。
とにかく題名の通り、少なくとも劇映画としては駄作。
映画内で説得力を持たせる努力をきちんとしてないから、ただのご都合主義にしか見えない。
エンドロールで流れていた実際の映像を使って、ドキュメンタリーにした方が良かったと思う。