劇場公開日 2011年10月28日

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「「月に囚われた男」に続くSFスリラーの佳作」ミッション:8ミニッツ マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「月に囚われた男」に続くSFスリラーの佳作

2011年11月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

知的

まず、導入部の撮影と編集の巧さに目を奪われる。美しく、そして鋭く、次のカットで何が起こるか分からない緊張感を呼ぶ。本篇への入り口は、列車の通過とのタイミングがドンピシャだ。新鋭のクリス・ベーコンが、これまたいいスコアを付けている。ここまでの数分で、ダンカン・ジョーンズの映画センスの高さが窺える。

本篇だが、ジェイク・ギレンホール演じるコルター・スティーヴンス大尉が、列車事故で亡くなった乗客のひとり、ショーン・フェントレス教師の意識にどうやって入り込むことができるのか、はっきり言ってその仕組みはよく分からない。本作の場合、ここは深く考えずに〈成るものは成る〉と割り切って見ないと、ストーリーに置いて行かれる。
ここは、列車爆破直前の8分が繰り返されるところに妙味がある。そう思ったほうがいい。

では、8分でどうやって爆破犯人の手掛かりを掴むのか?
その解答が、繰り返される8分の体験の蓄積だ。
列車に放り込まれるたびに、目の前にはミシェル・モナハン演じるクリスティーナがいる。毎回、戻るたびに彼女との会話から始まる8分。何もしなければ同じことが繰り返されるだけだ。
ところが、舞い戻るたび、コトは微妙に変化する。繰り返しの中で学習し、それが生かされていく過程が面白い。

さらに、この映画ではそこにもう一工夫を加える。
自分がなぜここにいるのか、なぜこのプロジェクトに参加しているのかという疑問を差し込む。実は、意識を他人の中に転送するというだけではSFとしては不完全で、ただのお伽話になってしまう。ここに主人公の存在意義を入れてこそ本物のSFとして成り立つ。同監督のデビュー作「月に囚われた男」も、まさに“自分は誰でどこから来たのか?”というテーマを持ったSF佳作だった。

小さなカプセルの中で何度も何度も死を繰り返す8分、自分の身はいったいどうなるのかという不安が膨らんでいく。
外界とのコンタクトはヴェラ・ファーミガ演じるコリーン・グッドウィン大尉だけだ。彼女の存在が大きい。ときに、人として判断に躊躇する姿は、唯一、人間味のある人物として癒される。

そしてSF作品として成功させるラストのひと捻りも怠りない。ここでは内容を伏せておくが、自分の研究成果にしか目をくれないラトレッジ博士に対して、コルターがある決断をするとだけ言っておこう。

94分という上映時間が120分にも感じる密度の高さは「月に囚われた男」と同様で、SFスリラーにおけるダンカン・ジョーンズ監督の才能を確固たるものにした。

マスター@だんだん