「映画通ほど騙されるのではなく、映画通だと自覚させる映画」ミッション:8ミニッツ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
映画通ほど騙されるのではなく、映画通だと自覚させる映画
乗員・乗客全員死亡の凄惨な爆破テロの実行犯を探すため時空を超えた捜査に命を懸ける物語は、当初、デンゼル・ワシントン主演の『デジャヴ』を思い出した。
被害者のヒロインと恋に落ちる哀しいロマンスも酷似している。
しかし、今プロジェクトは人体実験の趣が強く、冷酷に進められ、明確に違うデジャヴを形成している。
相違点は主に3つ。
1:自らの志願ではなく、いつの間にか強制的にトラベル執行され、標的を見つけなければ、何度も繰り返される。
2:犯人が解ったとしても事実は絶対に変更できない
そして、最大の要素は
3つ目の
《遡るのは自身の体ではなく、脳波に適した被害者の肉体に憑依するシステム》という点である。
なぜ、自分自身の体ではなく、赤の他人で戻らざるを得ないのか?
謎だらけの作戦が事件を追うに連れて真相が明らかにされていく。
美しいヒロインとの出逢いと別れが往復する度に互いの振り回される運命に虚無感が瓦礫の如く募る。
よって、謎解きの要素は、理不尽なプロジェクトの構造にほとんど費やされており、犯人探しを楽しみにしている客には衝撃波は弱い。
タイムトラベル、テロ事件、恋物語それぞれにおいて充実していた『デジャヴ』に較べると、どうしてもインパクトに欠けてしまう。
オリジナリティの薄さが物足りない要因に繋がっているのは致命的ではなかろうか。
つまり、キャッチコピーの《映画通ほど騙される》という文句は今作には当てはまらない。
テリー・ギリアムの『12モンキーズ』
ジュネの『ロストチルドレン』
ロバート・ゼメキスの『バックトゥザフューチャー』
etc.脳と時空を扱った一連の作品の手法をなぞったうえでのオチだからだ。
正確には、映画通は騙されるのではなく、映画通だと自覚する映画の方がしっくりくる。
もしくは、映画通だと思い込ませる映画だ。
それを我々、医学用語で《洗脳》と呼ぶ。
byケーシー高峰
脳を洗う。
凄い言葉だ…。
主人公も客も己の脳を洗う意味を考えさせられる。
結論的には、そんな映画なのかもしれない。
では最後に短歌を一首
『炎(ほむら)起つ 車窓行き交ふ 残像の 迷宮は問ふ 刻む運命(さだめ)を』
by全竜