ゴーストライターのレビュー・感想・評価
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物静かに恐怖を増幅させていく巨匠の洗練
元英国首相の自伝執筆を請け負っていた前任者のゴーストライターが不可解な死を遂げたことから、その後任者に指名されたユアン・マクレガー扮する主人公が、首相が居を構える孤島の豪邸を訪れる。ロマン・ポランスキーの熟練された演出は、低い雲が立ち込める島の閉ざされた風景をカメラで掬いとることで、観客に逃げ場を与えない。新任ゴーストライターに常時張り付く謎めいた車の正体、大胆な首相夫人の行動と、疑り深い視線を投げかけてくるメイドetc。幾つかのヒントを与えながら、やがて、前任者の死に繋がる衝撃の真相へと辿り着く構成は、俗に言うポリティカル・サスペンスとしては、もしかして凡庸かもしれない。だが、ポランスキーの流麗で洗練されたタッチが作品に強い付加価値を与えている。こけおどしとか、強烈な音楽とは無縁な、物静かに恐怖を増幅させていくその手法は、エンドクレジットで初めてタイトルを開示する瞬間まで、映画ファンを心ゆくまで楽しませてくれるのだ。
設定の緩さが余計な考察を誘発する
面白かったけど、色んな点が気になる作品だった。
主人公は、嘘を書きたくないから、元首相が政治を目指すようになった本当の理由を明らかにしたい、と調べ始めた。
本人が言うように、自叙伝のゴーストライターであって、事件記者ではないのだから、前任者の不審死の真相を明らかにするつもりはなかった。
元首相夫人と関係を持った翌朝、ホテルに帰る途中まではそうだったのだろう。教授に会った帰りに尾行されて一気に風向きが変わった。
観ているこっちは、冒頭から不穏な空気を感じてたから、主人公の無防備さにハラハラする。身の危険を感じてからも無防備過ぎないか?終始手の内を見せるし、初対面の相手にも不用意に合うし。
結局、縦読みで謎が解けるけど、英国元首相の自叙伝の章アタマに「CIA」が出てくることある?前任のゴーストライターが「隠した」メッセージのはずが、全然隠れてないじゃん。
教授が「出て右に行け。左に行くと深い森だ」と言った点、出版記念パーティーの会場の壁に大きく、夫人が飲んでいたワインのメーカーのロゴがあった点は謎。
最大の謎は、CIAがエージェントであることを隠すためにここまでするか?という点。ネットに噂は出てるのに。
設定のアラのためにいろいろ考察させられちゃうのはどうかと。
ハラハラゾワゾワ
冒頭のフェリーのシーンからゾワゾワ感が止まらない。
前任者の死があるので、ずーっとハラハラ。
いつだって殺されてもおかしくない状況下で、謎解きをしてくれてホッとしたのも束の間。
最後まで魅せられました。
英国元首相の自伝を代筆することになったライター。 それだけのことな...
英国元首相の自伝を代筆することになったライター。
それだけのことなのだが、原稿を狙われて襲撃されたり、前任者が殺害されたりときな臭い。
なかなかスリリングでおもしろかった。
ただ、黒幕が何としても隠したかった事実は、そんな大したことでもないという印象で肩透かしを食らった気分だ。
また主人公がラストに襲われたのも、自業自得のような気がしないでもない。
巨匠の娯楽エンタメサイド
ホラーと文芸とか様々な分野で一級品を提供している巨匠の娯楽に徹した作品です。
スリラー抜群で話も明解でストレスがありません。
役者もその演技指導も良いですね。
やっぱこの人、全体にヨーロッパ調なのにエンタメ系統の貴種ですね。
職人ポランスキー
クリエイターの悪行をじぶんのなかでどう処理するか。という命題がある。
たとえばかつて井上ひさしがすきで読んでいたが「奥さんを殴って書く」というDV体質を知って、読まなくなった。
ウッディアレンがむかし養子に性的いたずらした件に対して、俳優は「もう彼とは仕事をしない」という一派と「仕事にプライベートは関係ない」という一派に分かれた。
セク/パワハラには、程度の差もある。
ジミー・サヴィルのような鬼畜と、一事件だけが取り沙汰されているような人では、罪の重さが天と地ほども違う。
クリエイターとしての優劣も大きな要素になる。
とるに足りない能力の者なら、セク/パワハラの罪状がちいさくても、罪を追及したくなるが、天才なら“天才ならしょうがない”──という気持ちが(正直)ないわけではない。
もちろん天才でも程度が考慮されての裁量にはなるが、いずれにしても、クリエイターの悪行にたいして、各々自分なりの裁決を持っているはずだ。
ポランスキーはどうだろう。ポランスキーの罪は相当大きい。
1977年にジャック・ニコルソン邸で、当時13歳の子役モデル(サマンサ・ゲイマー)に性的行為を強要した罪で逮捕されている。
そればかりか──
『1978年にフランスに移り、市民権を取得した。1979年の作品『テス』で主演をつとめることになるナスターシャ・キンスキーとは、彼女が15歳の頃から性的関係を結んでいた。2010年に女優のシャーロット・ルイスが「わたしもロマン・ポランスキーの被害者のひとり。彼は16歳のわたしに最悪の方法で性的虐待を加えた」と記者会見で公表、監督のアパートで虐待を受けたことを明らかにした。(中略)2017年、アーティストのマリアンヌ・バーナードは、10歳の時にカリフォルニアの海岸でポランスキーから裸になるよう要求され、淫らな行いをされたと証言した。ポランスキーは証言の内容を否定した。』
(ウィキペディア、ロマン・ポランスキーより)
タランティーノのワンスアポンア~に若かりし日のポランスキーが描写されていた。
ローズマリーの赤ちゃんでハリウッドに鮮烈なデビューを果たしたかれは、いわば時代の寵児だった。
無類の女好き、パリピで、シャロンテートだけでなく、大勢の女優にちょっかいを出したことは想像に難くない。
2020年2月28日、セザール賞(フランス国内のアカデミー賞)授賞式でポランスキー監督の『オフィサー・アンド・スパイ』が監督賞を受賞したとき、仏女優のアデルエネルが「恥を知れ!、ペドフィリア万歳!」と抗議の大呼をして、「燃ゆる女の肖像」監督のセリーヌシアマとともに退場した──という報道があった。
新型コロナウィルスが始まったばかりのときのニュースでよく覚えている。
河瀬直美の暴力沙汰が海外では報道されないように、ロマンポランスキーの悪行も、日本ではあまり報道されない。
で、じぶんとしてロマンポランスキーをどう処理するか、という命題に戻る。
若い頃、水の中のナイフや反撥や袋小路を見た。
ポランスキーの映画には得体のしれない恐怖が宿る。
『第二次世界大戦時はドイツがクラクフに作ったユダヤ人ゲットーに押し込められた。ゲットーのユダヤ人が一斉に逮捕される直前、父親はゲットーの有刺鉄線を切って穴を作り、そこから息子を逃がした。父母はドイツ人に別々に連行された。母親はアウシュビッツでドイツ人に虐殺された。また、母親はこの時、妊娠していたとポランスキーは証言している。父親はドイツ人により採石場で強制労働をさせられ、終戦まで生き残った。また自身も、ドイツに占領されたフランスのヴィシー政権下における「ユダヤ人狩り」から逃れるため転々と逃亡した。この体験がポランスキーの作品に深く影響を与えることとなった。』
(ウィキペディア、ロマンポランスキーより)
ローズマリーで名を上げてからも数々の大作名作を手がけた──テス、テナント、チャイナタウン、赤い航路、戦場のピアニスト、オリバーツイスト・・・。
けっきょく、好ましい作品がたくさんあるので、たんなる消費者としてはポランスキーを断罪する気分にならない。
逆に、セク/パワハラの園子温や河瀬直美にたいして、するどい処罰感情をもっている。好きじゃないせいもあるが、かれらが活動できるのはおかしいと考えている。
つまるところクリエイターの悪行をゆるすか/ゆるさないかは、好き嫌いがもっとも影響するのかもしれない。
──
よくできたスリラー映画。
基本的に映画づくりがじょうず。
監督で天才と称したばあい、たんに特異性を言うばあいがある。
とくに日本映画ではそれを才能と称する。
(ほんとは特異性すらないのだが)
しかし天才の基本は、映画づくりの技術を習得していることが前提ではなかろうか。
端的に言ってしまえば、むしろ映画には特異性などいらなくて、観衆を面白がらせる演出技法によって、チケット代分の楽しさを与えてくれさえすればいいはずだ。
ラーメンのつくり方を習得していないラーメン屋はいないが、映画のつくり方を習得していない映画監督はたくさんいる。──という話。
それを踏まえてポランスキーは基本的に映画づくりがじょうず。
映画は、人権的見地から告発されている親米派の前英首相の自伝を代筆する話。スリリングな原作/プロットを、豪華キャストたちが演じている。
キャットラルが婀娜っぽい秘書役だったが、映画のシーンスティーラーはオリヴィア・ウィリアムズ。きれい。
いくつかの海外評でヒッチコックが引き合いされていたがヒッチコック気配は(まったく)なく、政治性も希薄、良質な娯楽映画になっていた。
本作にも出ているが、さまざまな映画でジョン・バーンサルを見かける。ほんとに、じわり、じわりと前へ出てきた苦労人バイプレイヤーだと思う。
サスペンス/ミステリー大好物の人は必見
サスペンス/ミステリー好きには堪らない、静かなゾクゾク感満載。実際、怖いシーン、カットは何も無いのに、だんだん怖くなってくる。ロマン・ポランスキーなので当然ハリウッド的などんでん返しも無く、良い意味で古い名画のようなトーンで物語が進む。役者の台詞と表情の重みが大きい、映画らしい映画。
脚本も良いが、ポランスキーらしい濃い目の落ち着いた画作り・色調も良い。変な音楽も耳に残る。作家を演じるユアン・マクレガーも良い。ケチをつけるポイントがあまり無い。
ひどいストーリー
イギリスの元首相がCIAの手先なのかどうか、という点が焦点となる話です。
もしもこの映画制作者が誰かを告発したかったのなら、ブレア首相(……だよねたぶん)を実名で描くべきだったと思います。
訴訟に耐えるだけの十分な証拠を用意した上で、腰を据えて実名で描いていれば、これは(ことによると)素晴らしい作品になっていた……かも知れません。
が、そこまでの準備もなく作られたこの映画は、どこの誰とも知れぬ架空の元首相の、どれほど重たいのかも不明なスキャンダルのお話です。
興味の「キ」の字すら沸かぬのが当然でしょう。
というわけで、最初から最後までトホホ感が全編にほとばしる作品でした。
良作。大人向けな作品。
ヒッチコックサスペンスを思わせる。
音楽とか、全体的に暗い色調とかは、モノクロ時代のヒッチコック作品を意識してるのかな?って感じた。
サスペンスはストーリーを話すと台無しになってしまうので詳細は語らないけど、良い展開のストーリーだった。おかげで、最後の種明かしで「なるほど!」って感じられた。
ただ、この手の陰謀論は、ヒッチコック時代であればまだリアリティあったけど、冷戦終わって20年以上経った現在だと、作中の組織にそこまで力があるとは思えない。
まぁ、どちらかと言うと、イギリス政権への風刺ってことなんだろうけども。。
サスペンス好きであれば観た方がいいです。
ゾクゾクが止まらない
謎解きのゲームを進める感じでおもしろい。
主演のEマクレガーは最後まで名前名乗らず。
正に“ゴースト”。
中盤で会うおじいさんのヒントが一番ゾクゾク。
そこからすぐには謎解きに持って行かせない展開が流石。
しかしラスト、急ぎすぎたかな。
そもそもあの自叙伝は誰が書いたことになったんだ。
そして“ゴースト”がホントに“ゴースト”に…って。
首相が自叙伝出すとか、孤島で住んでるとか、
大学教授とCIAの親和性の無さとか、
そういった価値観は置いといて、
時系列は数字出したらちゃんと並べて解決して欲しい。
数字弱い人はそこが気になって仕方ない。
雰囲気全般に渡って淡々として陰鬱。
眠気にご用心。
ともあれ、上級なサスペンスドラマ。
ポランスキー監督大好きだ。
ロマン・ポランスキー監督。 ユアン・マクレガーが可憐にも(^ワ^)...
ロマン・ポランスキー監督。
ユアン・マクレガーが可憐にも(^ワ^)作家くずれのライターを演じ 意外な展開に。
真実の輪郭にふれる幽霊
大きな起伏は無いながらも程良い緊張感と少しずつ紐解かれてゆく伏線、衝撃のラストには鳥肌が立った。政治的無関心であり世界情勢をも他人事の様に捉える人たちには退屈かも。ラストを陳腐と捉える人が居るのはまぁ…それまでの流れや題材的にも仕方ないか
まるで小説のよう!
大好きなユアン・マクレガーの出演作。
小説を1ページ1ページめくっていく感覚。
どっかーんとくるわけではないけれど、最後までずっとドキドキしていました。
細かい心理描写が秀逸。
静かに静かに、息を詰めてしまうような作品です。
希薄…。。。
御伽噺を見ている様だ。
重くもなく軽くもない。これ程迄に引き込まれる登場人物が 出 て 来 な い 映画を観たのは久し振りなのではないか。
共感、若しくは嫌悪感を抱く様な、機微に入る感情移入を誘う台詞も行動も特に無い。ただただ謎めいて、淡々と解き進む、と言った印象。
何より渇望感が無い。主人公の「謎を解きたい」欲望、元英首相の保身欲、元首相に仕える人々の切迫感、元首相を恨んでる風な群衆、正義を貫きたい元首相にとっての敵対勢力、国家を揺るがす事件に群がる報道陣――。
全ての登場人物の確固たる情念が見えないから どうしても話が希薄に感じられてしまうのだ。
当然、これでは原作にも興味が湧かない。改めて Stieg Larsson 恐るべしを思い知るのであった。
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