「土曜ワイド劇場的安定感ある見応えの政治サスペンス」ゴーストライター 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
土曜ワイド劇場的安定感ある見応えの政治サスペンス
『戦場のピアニスト』『チャイナタウン』『ローズマリーの赤ちゃん』etc.で知られる名匠ロマン・ポランスキーが複雑で魑魅魍魎ひしめく根深い政治の裏側をテンポ良くエンターテイメント大作にまとめ上げている。
アルカイダやネットetc.現代の時事ネタを扱いつつ、敷居は決して高くなく、人間の秘密が暴かれた時の狂気を重厚に炙り出しており、いろんな意味においてクラシックな面白さが散りばめられ、落語で云う古典の貫禄を聴くような雰囲気であった。
設定は現代やのに、妙に古臭いとも云える創り方で新鮮味は劣る。
しかし、その分、安心して観られる世界観でも有る。
松本清張サスペンスを土曜ワイド劇場で観る感覚に近い。
『迷走地図』とか『ゼロの焦点』とか。
また、前任者の原稿の中に陰謀を暴く暗号が潜んであり、解いていくミステリー要素は横溝正史の金田一シリーズを思い出す。
んまぁ、命を狙われてる者が、そないダイイング・メッセージに凝ってる余裕なんて無いやろとツッコンだらそれまでやけどね。
そういう懐古的推理劇の趣が古典的な匂いやと察したのだろう。
故に優れたクオリティの割に平均的な印象だったのかもしれない。
そんな欠点を差し引いても、女性陣の充実度は相変わらず上手い。
真相を知ってそうな秘書や首相夫人etc.怪しく立ち込める色気も醍醐味の一つで、翻弄されていくユアン・マクレガーの戸惑う表情が興味深く、悲劇的かつ衝撃的なクライマックスへと繋がっていく。
サゲにおける後味の悪さこそ、ポランスキー節の持ち味なんやろね。
在任中、人気が高くスマートながらも裏に人知れぬ巨大な闇を抱える首相を先代007のピアース・ブロスナンがミステリアスに演じており、日本やったら、小泉純一郎が在任中のゴタゴタを掘り起こす感じなのかな?と思った。
んまぁ、真相究明したところで「人生いろいろ!疑惑もいろいろです!」って一蹴されてオシマイなんやろうけど…。
所詮、日本の政治なんざぁ、せいぜいワイドショー程度なんやなと実感しながらも最後に短歌を一首
『波に散る 筆を拾いし 幽霊船 嵐に灯す 船出の綴り』
by全竜