「独自の映像感覚と名優の競演が更に作品を盛り上げる見応え有る1本」ゴーストライター Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
独自の映像感覚と名優の競演が更に作品を盛り上げる見応え有る1本
「戦場のピアニスト」以来9年目の新作となる、ロマン・ポランスキー監督の『ゴーストライター』は、久しぶりに、‘映画を堪能できた!’と言う満足感と共に私に映画館を後にする感動をくれた。
推理小説の映画化作品及び、サスペンス映画など話しが進む過程で誰が真犯人なのかを推理しながら見る映画には、犯人推理の為の複線が多数本編全体に巧く散りばめられていて、映画は読書と違い、読み返してもう一度不明な点を確認する事を許さない。
つまり私の様に感の鈍い観客や、集中力が保てない疲れた後にはサスペンス映画を観るのは不向きである。しかしそんなサスペンスが得意で無い人にも飽きる事も無く、置いて行かれたと言う不満を抱かせる事ない。
しかも推理好きにも、そう単純に謎がばれてしまう様な安易な芝居も無い。綿密に練り込まれ、仕込まれた手作り感覚の風合いを残した本作は、監督自身様々なスキャンダラスな事件に巻き込まれて来た、彼ならではの実体験に基づいた、人の揺れる心と、物事の裏表の描写感覚の凄さが、そのまま作品の価値を大きく上げている気がしてならない。
『ローズマリーの赤ちゃん』を観た時のラストのショック、『チャイナタウン』のラストも決して忘れられない。この作品も同様だ。70代になった彼には老いと言うものが有るのだろうか?全く演出に衰えを微塵も感じさせるところが無い作品だった。
監督の魅力同様、主演のユアン・マクレガーの繊細な芝居も目を見張る。彼は、『トレインスポッティング』のブレイク以来『エマ』『ブラス』『ムーラン・ルージュ』『スターウォーズ』『天使と悪魔』『フィリップ』と出演作品それぞれ巧みに役どころを変幻させ、そしてウッディー・アレンの作品に迄出演している、何と言う芸達者な俳優だ!
この映画一つ一つ気に入った処を書いて行きたいところだが、映画の性質上多くは書けないので、ここで終わりにするが、P・ブロスナン、キム・キャトラル、イーライ・ウォラック等々名優の競演もこの映画の楽しみを一層引き上げる。
3D全盛の今時の作品としては、派手な特撮と言う‘騙し絵’的な小細工無し、掛け値無しで、これこそ今時真っ当な娯楽映画と呼ぶに相応しい作品に出会えた事をとても嬉しく思う。