「物静かに恐怖を増幅させていく巨匠の洗練」ゴーストライター MPさんの映画レビュー(感想・評価)
物静かに恐怖を増幅させていく巨匠の洗練
元英国首相の自伝執筆を請け負っていた前任者のゴーストライターが不可解な死を遂げたことから、その後任者に指名されたユアン・マクレガー扮する主人公が、首相が居を構える孤島の豪邸を訪れる。ロマン・ポランスキーの熟練された演出は、低い雲が立ち込める島の閉ざされた風景をカメラで掬いとることで、観客に逃げ場を与えない。新任ゴーストライターに常時張り付く謎めいた車の正体、大胆な首相夫人の行動と、疑り深い視線を投げかけてくるメイドetc。幾つかのヒントを与えながら、やがて、前任者の死に繋がる衝撃の真相へと辿り着く構成は、俗に言うポリティカル・サスペンスとしては、もしかして凡庸かもしれない。だが、ポランスキーの流麗で洗練されたタッチが作品に強い付加価値を与えている。こけおどしとか、強烈な音楽とは無縁な、物静かに恐怖を増幅させていくその手法は、エンドクレジットで初めてタイトルを開示する瞬間まで、映画ファンを心ゆくまで楽しませてくれるのだ。
コメントする