リンカーン弁護士 : 映画評論・批評
2012年7月3日更新
2012年7月14日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
ポール・ニューマンにも見える、マコノヒーの中年弁護士像に心動かされる
法廷ドラマはどうも映画と相性がよくない。過去に傑作と呼べるのは、ビリー・ワイルダーの「情婦」やシドニー・ルメットの「評決」ぐらいか。裁判の争点がメインプロットになった作品ならまだいいが、たいていの場合の法廷シーンは退屈にしか映らない。カメラは主人公のアップや検察側と弁護側の切り返しカットに終始し、物語のリズム性や主人公の運動性を著しく停滞させてしまうからだ。
本作の主人公ミック・ハラー(マシュー・マコノヒー)は、ロサンゼルスの刑事犯罪専門の弁護士。同じマイクル・コナリー原作である「ブラッド・ワーク」のFBI捜査官テリー・マッケイレブはボートハウス暮らしだったが、ミックのオフィスは“どこへでも移動できる”黒塗りの高級車リンカーンだ。この根を生やしていない主人公の感覚が、ブラッド・ファーマン監督により切り取られた夜のロサンゼルス、巧妙に出し入れされた人物配置と相まって、本スリラーの勝因となっている。クライマックス、映画は鬼門である法廷シーンへ突入するが、前半に貯め込んだ主人公の運動性の貯金が功を奏して、まったく退屈せず、裁判を間近で“傍聴”出来る。
一方、ミックは酒飲みで、彼の案件もバーを発端とした暴力事件だ。弁護士の別れた元妻マギー(マリサ・トメイ)とも、先に酔いつぶれた方が家まで車で送ってもらうという友人関係にある。こうした車社会ならではのシチュエーションが効いている。思えば、このプンプンするようなアルコールの匂いこそ、往年のノワール映画の神髄だった。
「評決のとき」から16年、角度によっては「評決」のポール・ニューマンにも見える中年弁護士マコノヒーの演技に心動かされる。
(サトウムツオ)