「「お・ふ・ろ」」テルマエ・ロマエ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
「お・ふ・ろ」
「のだめカンタービレ 最終楽章」を手掛けた竹内英樹監督が、「天国からのエール」の阿部寛を主演に迎えて描く、ゆるゆる群像劇。
「お風呂」涙にくれた夕暮れ、電気も切れかけた切ない一人暮らしの部屋・・何とも心が塞ぐ雰囲気の中でも、鏡に向かって一人、この言葉をつぶやいてほしい。「お・ふ・ろ」。「ろ」の間抜けた半開きの口を見るだけでも、思わず顔がにやけてしまう。
そうでなくとも、この「お風呂」という言葉、ナイフのような鋭さもなく、「クルクミン」みたいなすっとぼけすぎた弱さもなく、程よく人間の心を和らげる力がある不思議な言葉・・・だと、私は勝手に思っている。
さて、本作である。「お・ふ・ろ」この絶妙なリラックス感をもった言葉の可能性を信じる、作り手の遊び心とユーモアがぴりりと効いた心地よい作品に仕上がっている。
古代ローマ、優秀な技術をもった浴場設計技師、ルシウスは斬新な浴場=テルマエのアイデアに行き詰っていた。斬新な発想・・・思い詰めて風呂に浸かっていたルシウスは、ひょんなことから2012年の東京へと迷い込んでしまう。
一歩間違えば、時空を超えた戦争一大絵巻にでも発展しそうな壮大な時間移動を軸に展開する世界。「タイムスリップ」というキーワードをさらに掘り下げれば、詳細な化学用語や体内分泌成分、地質成分を持ち出して「地球は、どうなってしまうんだ!」科学者は頭を抱え、大統領は核を引っ張り出した!!みたいな話になるものだが、そこは作り手のユーモアが光る。
コメディとしての体裁をぎりぎりで保つ曖昧さを最後まで維持し、「風呂はいいもんです」という究極のテーマの柔らかさを活かすことに全力を注ぐ。その力の抜け具合が心地よく、2時間の長尺をまるでぬるま湯に浸かるように「ぐで~」としたひと時を楽しめる。
違和感のない阿部のローマ人に笑い、しばらくスクリーンで見ないうちに美しく女優としての存在感を高めていた上戸の可憐さに身を乗り出し、びっくりするぐらいに垢のでるおじいちゃんに不安を覚えていたら、いつの間にやら気持ちは安らぎ、体は脱力。なかなか、休日の空いた時間を埋めるには最適の一品ではなかろうか。
鑑賞後、静かに車を地元の銭湯に向かわせてしまうこと必至の作品。まあ、前半のテンポの悪さには、目を瞑ってあげようではないですか?