「勇気と再挑戦。」未来を生きる君たちへ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
勇気と再挑戦。
名画座にて。
第83回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したヒューマンドラマ。
さすがS・ビア、人間の愚かな性から一歩も退くことなく描いた。
暴力への対峙、よくいう目には目を。歯には歯を。を貫くべきか。
愚かな暴力には忍耐を持って対抗するべきか。
そんなこと分かっちゃいるけど、黙っていたらやられるばかり…
その辛さから耐えられずに報復に走るイジメの犠牲者は多い。
正確な答えの出ない、いわば人間の価値観と性に依る物語のため、
主人公一家のとる行動と選択に共感できるかどうかが試されるが、
今も止むことのない戦争問題を考えれば、単純に暴力⇔暴力が
正しいはずはないことを誰もが分かっている。
問題はタイトルにもある通り、これからの未来、子供達にそれを
どう伝え、どう育てていくかということなんだろうと思う。
多感な時期、様々な問題に直面した子供達が、自分の正義を由と
して自信をもって行動するためには、大人はどうしたらいいのか。
今作が面白いのは、大人達がそのスペシャリストではないところだ。
浮気が元で妻と別居中の夫、妻に急逝されたことで子供との関係を
保つことができないでいる父親、すぐに暴力にたよる職人、学校で
対処できない問題を家庭に押し付ける教師、難民を虐殺することに
何の抵抗感も持たない悪魔のような男、ろくな大人が出てこない…
結局皆が弱い人間で、欲望にも哀しみにも簡単には抗えないのだ。
(それは当たり前のことなんだけど)
しかし主人公一家の父親とその子供と近しくなる父親の価値観は
ほぼ同等で、子供にとって必要な愛情と真摯な眼差しを向けている。
ここは是非見習いたいところだと思った。
とはいえ学校で執拗なイジメを受けていたり、親友の父親が目前で
殴り倒される場面を見たりすれば、小さな心は傷みに揺れてしまう。
そのわずかな傷みが何を引き起こすかを監督は執拗に追いかけ描く。
誰もが誰もを認め合い、赦し合う時代はやってくるのだろうか。
やられてもやり返さない姿勢を臆病ではなく勇気だといえる時代。
イジメっ子を制するにはその倍返しで痛めつける方法が一番なのか。
暴力に訴えない方法はすぐに効果をみないが、損害を与える相手が
何のリアクションも示さなければ、いじめる側はいつかは諦めないか。
でもそれはだらしなくて卑怯な考え方だろうか。
日本が戦争に加担しないのは、それ相応の理由があるからである。
やれ卑怯だの臆病だのとどんなに言われても退いてはいけない勇気。
主人公の息子があれだけ虐められているにも拘らず、一日も休まず
学校へ通う勇気と、他人に見せる思いやりや笑顔を奪ってはいけない。
むしろあの勇気を見習うべきところである。
物語の後半は、赦しと癒しがテーマになってくる。
攻撃と悲劇の顛末は夫婦や親子や友人の赦しに依る再生で終わる。
最近知った言葉だが(某番組にて)、
何かとリベンジ(復讐)という言葉を掲げることが多い昨今、
これじゃなくてリトライ(再挑戦)を使った方が良くないかと思う。
何度でもリトライする根性をもつことで、人生はより良くできないか。
相手を許せないのは、ほとんどが自分の気質と考え方に依るもので、
自分の懐の狭さを考えさせてくれるのが、今作の最大の特徴である。
(人生リトライし続けるべきか。赦しを乞いたいことがありすぎまして^^;)