未来を生きる君たちへ : 映画評論・批評
2011年8月9日更新
2011年8月13日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
何が起こっても生き続けていく強さ
デンマークの女性監督スサンネ・ビアは、“選択”を描く監督である。ここ10年ほどは社会問題を絡めたシリアスなドラマを撮っているが、社会問題はあくまでも主人公たちの背景として存在し、描いているのは生き残るために仲間を殺すことを迫られた捕虜や、全身不随となった恋人と結婚するか迷う女性など、岐路に立たされた人間の選択についてである。
本作も虐殺者に治療を頼まれた医師の父親といじめに遭う息子の選択が描かれるが、今回は世代による価値観の違いを入れ込むことによって、憎しみの連鎖と赦しというテーマをより深く掘り下げている。このテーマは身近な問題でもあるため、これまでの作品と違い自分の物語として捉える観客も多いだろう。それだけに主人公たちの赦しの姿勢に共感できるかどうかが、本作に感動できるかどうかに直結してしまう恐れがある。しかしビア作品の魅力はテーマや題材そのものではない。
彼女の作品の素晴らしさは、葛藤だけでなくその後の決断と、その決断を受け入れる周囲の人々を最後に必ず見せる点だ。ラストで常に希望を感じさせるのは、下した決断の正しかった結果として希望があるのではなく、決断することで前進していく姿に、観るほうが希望を見出すからだろう。今回もテーマである赦しが正しいかどうかというより、何が起こっても、それでも生き続けていくのだという人間の強さを感じさせる点に、一番心が動かされる。
(木村満里子)