「人への信頼をやめないバットマンの強さと弱さ」ダークナイト ライジング DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
人への信頼をやめないバットマンの強さと弱さ
ストーリーは
ゴッサムシテイー市長、ハービー デントが死んで8年が経った。彼の捨て身のギャング団、壊滅作戦の功績によって、街に平和が戻った。と、市民は信じている。実際にはハービー デントは、刑事局長ジム ゴードンの家族を人質にとって、レイチェルを失った仕返しに、ゴードンを襲って殺そうとしたところを、バットマンとゴードンの力によって葬り去られたのだった。事実を知っているのは、ゴードン刑事局長とバットマンだけだ。このために、バットマンはハービー デント殺しの容疑者として警察に追われている。
このジョーカーとの闘いで、全身に傷を負ったバットマンこと ブルース ウェインは、この8年間 治療に努めてきたが、杖をついて歩く身となっていて、人前に出ることを避け、隠遁生活をしていた。
にも関わらず、謎の女、セリーナ カイル(キャットウーマン)が介入してくる。折りしも、ロシアの核物質物理学者のカーボ博士が誘拐され、凶悪犯テロリスト、べインが現れて、ゴッサムシテイーを破壊しようと企てていた。
ゴードン刑事局長が、誘拐され瀕死の重傷を負って助け出された。彼は、部下の新人刑事ジョン ブレイクに、この窮状を救えるのはバットマンだけだ、と漏らす。ブレイク刑事は ブルース ウェインを訪ねる。
彼は8年前、バットマンがゴードン刑事局長の家族を助けるために戦っている時に殉死した警官の子供だった。孤児となった彼は ウェイン財団の経営する孤児院に保護されて育った。孤児たちにとってバットマンは英雄だったが、ウェイン財団のブルース ウェインも 自分達と同じ孤児だったという意味で英雄だった。みなは、孤児だったウェインが仮面を被り、悪人をやっつけてくれるバットマン、その人ではないかと、いつも語り合っていたのだ。彼は、バットマンに帰ってきて欲しいと、ブルース ウェインに懇願する。
体中に傷を負い 心の支えだった恋人レイチェルを失ったブルース ウェインは、もう引退するつもりで居た。しかし、この新人刑事ブレイクの言葉に励まされ、今がバッドマンの再稼動の時期だ、と思い定める。それを観ていたアルフレッド執事は、怒る。両親を失ったブルースを親代わりになって世話してきて いつか彼が妻と子供をもち、静かな生活をする姿を夢見て生きてきたが、傷だらけになりながら 命を惜しもうとしないバットマンを、もう世話することに耐えられない。何世代も前から家族のためにつくしてきた執事は去っていった。しかしブルース ウェインは執事の忠告など聞いていない。ゴッサムシテイーに 凶悪テロリストのべインがやってきたのだ。
極悪者べインは株式市場を占拠する。市場操作で、一夜のうちにウェイン財閥は破産させられた。経営権は クリーンエネルジーの会社を経営するミランダの手に渡った。市のフットボール会場で爆弾が破裂して何千人もの被害者が出る。ゴッサム市に渡るための橋は すべて破壊され、たったひとつ残った橋は封鎖され、全米本土と隔離される。警察官たちは そろって地下に封じ込められた。べインの暴力は街中でほしいまま荒れ狂う。
8年間姿を消していたバットマンが登場する。しかし罠にはまってべインに攻撃され瀕死の重傷を負って 砂漠のなかの地下深く、二度と外に出ることが出来ない牢獄に監禁される。二度と立つことが出来ないと思われるブルースに 食べ物を与え、傷に治療を施してくれたのは 生まれたときからその地下牢にる老人達だった。辛うじて立つことができるようになったブルースは、自己訓練を重ね、遂に深い井戸から脱出する。
バットマンが ゴッサムシテイーに戻ってきた。
ウェイン財閥が開発してきた新エネルギーの核が、べインたちによって盗み出され、カーボ博士によって核兵器に作りかえられてしまった。取り戻してリアクターの中に戻さないと 爆発してゴッサムシテイーが吹き飛んでしまう。原子爆弾の奪い合いのなかで、バットマンはウェイン財閥を買収したクリーンエネルギーのミランダが、実は世界の破壊を目論む本当の敵であったことがわかる。べインはミランダの番犬でしかなかったのだ。ミランダの父親ヘンリー デュカードは、バットマンの宿敵で世界の破滅だけを望んでいる男だった。
バットマンは敵の手に渡り、安全スウィッチを解除され、爆発まであと数分という段階の原子爆弾を、自分の空飛ぶ自家用車にくくりつけ、できるだけゴッサムシテイーから離れた海上に飛んで行き、、、。
というお話。
これでバットマンが 完結して終わった。
第一作「バットマン ビギンズ」2005年と、第二作「ダークナイト」2008年に続いて、これが第3作目で完結した。監督クリストファー ノーランの作品のなかで最もヒットした作品だろう。
主演のクリスチャン ベールを、執事役のマイケル ケインと、ウェイン財閥のモーガン フリーマンが しっかり支えるという芸達者3者3様のコンビネーションが絶妙だ。単純なアメリカンコミックを、ノーラン監督が バットマンという理不尽にも両親を暴漢に殺された青年が、正義とは何か、警察や社会のルールに正義はあるのか、思い悩むひとりの青年の姿を描くことによって、命を吹き込むことに成功した。悪と戦う暴力シーンが多いが、それ以上に、最新式メカニックマシンや 多機能の車や、飛行する車の登場に目を奪われる。そして、どんな苦境に陥っても、人を信頼することを止めないバットマンの強さと弱さが描かれている。
とてもよくできた映画で、3時間近く画面から目が離せない。場面展開が速く、ストーリー展開も速いので、ひとつひとつのデテイルを追うのが大変だが、笑えるシーンもたくさんある。
隠遁していたブルース ウェインが母親の大切にしていた真珠の首飾りをキャッツウーマンに盗まれて、取り返しにパーテイー会場にいく。何年ぶりかに初めて外出したブルースが、車から杖と不自由な足を出したとたんに、マスコミの記者達が、一斉にカメラを向けてフラッシュを焚く。でもブルースがカチリと足につけたスイッチを押したとたんに フラッシュが消えカメラが作動しなくなって記者達があわてふためくシーンなど、映画の中では一瞬だが、 バットマン第一作でおなじみのテクを知っていて見逃さずに居ると、とても笑える。
娯楽映画だから、楽しい。しかし、公開されたばかりの7月20日に、コロラド州デンバー郊外の映画館で上映中に銃の乱射事件が起こり、6歳の女児をふくむ12人が亡くなり、58人の怪我人が出た。容疑者は自分がジョーカーだと名乗っており、自宅にバットマンマスクも持っていたと報道されている。銃がネットで買える国、アメリカで起きた悲しい事件だ。
好きな映画に好きな監督、好きな役者が演じた映画なので もんくは言いたくない。しかし、クリーンエネルギー研究をウェイン財閥がやっており、研究用の核が容易に原子爆弾になって、ゴッサムシテイーの海上に投棄されるというラストシーンは 変更されるべきだった。漫画なのだから、原子爆弾ししなくても 新種の液体爆弾とか、月からもってきた新種の黴菌爆弾とか、考えられるだろうに、、、。 4メガトンの原爆を、爆発数分前のところをバットマンが抱えて海上に持ち去る。4メガトンといえば 広島に投下された原爆の数千倍。新幹線並みの速さで、それを捨てに行っても 12ミリオンの市民の住む街から それほど遠くまで運べない。バットマンのおかげで市民は救われたことになったが、街から数キロ先の海上で爆発した原爆は 何千度もの熱さで煮えたぎり(広島では土壌の温度が6000度)、大津波が起きて、街を波で洗いさらうことだろう。ラストシーンで 海から湧き上がるキノコ雲を見ながら バットマンによって助かったと思い込んだ市民は みなことごとく被爆したのであって、助かったのではない。