「壊れた機械になぞらえて、意味のない人間は誰一人いない、壊れた心は修理できる 映画にはそれができる力があるのだというメッセージなのです」ヒューゴの不思議な発明 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
壊れた機械になぞらえて、意味のない人間は誰一人いない、壊れた心は修理できる 映画にはそれができる力があるのだというメッセージなのです
心から感動しました
まことにスコセッシ監督が手がけるに相応しい、いや彼がやるべき仕事であり、彼にしか出来ない作品であり、彼が熱望して取り組んだ仕事です
すべての映画好きは本作を観て、スコセッシ監督のメッセージを受け止めて噛み締めるべき作品です
あなたはマーティン・スコセッシ監督が1990年に立ち上げた非営利の映画保存団体「ザ・フィルム・ファンデーション」の活動をご存知でしょうか?
2006年よりはグッチの支援を得て何本もの映画フィルムを危機から救ってきたのです
例えば溝口健二監督の「雨月物語」、ニコラス・レイ監督の「理由なき反抗」、ヴィスコンティ監督の「若者のすべて」などなど問答無用の映画遺産を4Kデジタル修復版で修復してきたのです
そのことをご存知の方なら本作をスコセッシ監督が撮った意味も意義も、もうよくお分りのことてましょう
ジョルジュ・メリエスが、いかに大きな映画の礎を築いたのかを本作では、メリエスのスタジオをセットで再現して、そこで監督自らがメリエスのつもりで彼の映画撮影の再現までして見せているのです
そのリスペクトぶりは半端ではありません
メリエスが手品師であったことは本作で初めてしりました
彼こそは映画の始祖の一人であり、特撮の創始者であったのです
怪獣映画も、ファンタジー映画も、宇宙SFもみんな彼の映画からはじまり、基礎テクニックもすべて彼がゼロから生み出したものだったのです
改めて驚嘆しました
そしてスコセッシ監督が、本作で初めて3D撮影、デジタルカメラ撮影に挑戦したことの意味が分かりました
単に3D映画が流行しているからだとか、デジタルカメラ撮影の方がコストや編集が楽だとかそんなつまらない理由ではないのです
時代に合わせて新しい技術に挑戦する姿勢
それをメリエスから教えられ、スコセッシ監督自ら、メリエスに負けまいと取り組んだに違いありません
「冒険したくない?」
そんなメリエスの声を監督は原作を読んで聞こえたのかしれません
ヒューゴはスコセッシ監督そのものの投影なのです
本作はそんなことはさて置いても、ジュブナイル映画として見事な出来栄えです
絵を描く機械人形、子役の素晴らしさ、鉄道公安官の造形、モンパルナス駅の人々、プロットの広がり、それでいて何一つ無駄がないないのです
スコセッシ監督の実力の凄さが充満しています
メリエスが映画撮影を止めてしまった原因は、第一次世界大戦で過酷な現実を舐めたことで、お気楽な映画は人気が無くなってしまったことだと劇中で説明されます
平和の大切さもメッセージにあります
何より壊れた機械になぞらえて、意味のない人間は誰一人いない、壊れた心は修理できる
映画にはそれができる力があるのだというメッセージなのです
ヒューゴの不思議な発明
本当の不思議な発明は、それはメリエスの映写機だったのかもしれません