「童話世界のハードアクション」ハンナ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
童話世界のハードアクション
公開されて日が経つが、ようやく最寄の映画館で公開が始まった本作。
もともとソリッドなアクション映画が好きな上に、
主演は『ラブリーボーン』の好演も記憶に新しい
演技派美少女(←何だその肩書き)シアーシャ・ローナン、
監督は文芸映画のイメージしか浮かばないジョー・ライト、
スコアはケミカルブラザースときたもんだ。
出来栄えが予測できない映画ってのはワクワクしますねぃ。
で、やっぱり見所は主人公ハンナ。
格闘・銃撃ともにキレのあるアクションと、イノセントな演技で魅せる。
アクション演出にややケレンが足りないのが少し残念な所だが。
だがそれ以上に魅力的なのは、本作の雰囲気そのもの。
雪舞う密林の一軒家
どこまでも続く砂漠
異国の安宿
廃れた恐竜公園
子どもの消えた遊園
この無国籍な感じ。
いや、この世の何処からも遊離した感じ。
本作はハードなアクション映画でありながら、
全編がふわりふわとした幻想的・詩的な空気に包まれている。
ハンナにとって、これまで触れた事の無かった外の世界は
彼女が好きなグリム童話にも似たお伽噺の世界だったんだろう。
これがグリム童話なら、仇役マリッサの立ち位置は“悪い魔女”。
触れると切れそうなほどに冷たい感じが怖い。
「子どもはいる?」と訊かれた時の顔のヒクつきや、血が出るまで歯を磨くシーンなど、
今にも理性の皮膚を引き裂いて獣が飛び出して来そうな、そんな恐ろしさ。
本作では登場人物の細かな設定は語られないが、
マリッサは何か“女”としての劣等感みたいなものでも抱いてたんかねえ。
行動の端々に、子を持つ母親に対する異常なまでの憎悪を感じる。
今の地位を得る為に色々なものを犠牲にしてきた女性なのかもね。
さて終盤、マリッサとハンナの父親との短い会話。
「なぜ今になって?」
「子どもは育つ」
父娘の目的は、母の復讐だけでは無かったのだろう。
父は手塩に掛けた人間兵器の“成果”を見たかったのかも知れないし、
逆に兵器としての運命をこれきり断ち切るつもりだったのかも知れない。
自分ではなく、実母を殺された娘が手を下す事に意味を見出だしたのかも知れない。
いずれにせよ、これはハンナにとって一種のイニシエーション(通過儀礼)だった。
悪い魔女を殺し、その拘束から解き放たれて、外界へと旅立つ。大人に近付く。
……まるでグリム童話。
ミステリアスな面白さの佳作。
<2011/11/5鑑賞>