「遺した希望、遺された命」アントキノイノチ カバンさんの映画レビュー(感想・評価)
遺した希望、遺された命
初めてこのタイトルを見た時、あのモノマネ芸人が頭に浮かんで来ましたが、内容は大真面目です。そして暗いです。
心をズタズタにされ、心を固く閉ざした若い2人が、遺品整理の仕事を通して心を取り戻すという、ストーリーとしてはいたって単純。主人公・杏平の過去と現在が何度も交錯します。
子どもには見せづらい面もあります。最初のシーンから杏平が全裸で屋根に上ったり、あと、友人の飛び降り自殺。グロとはいかなくても、描写が直接的でPG12でも仕方ないかな…と。
上映時間を3分割したら、最初の1/3は上記のようなシーンで入り込めましたが、2番目は気分的にしんどかったです。荒れ果てた主亡き家の中がかなり壮絶で…。画面からニオイが飛び出して来そうな程に衝撃的で、気分が悪くなり、正直、劇場から逃げ出したかったです。また、どもっていて言葉がなかなか進まない杏平がとてもじれったい…。
しかし後半、ゆきちゃんが自身の苦しい過去を語り初めた辺りから、気分は回復。2人それぞれに感情移入ができました。特に、ゆきちゃんが辞めた後、彼女を心の支えに奮闘する杏平の、空回りもある成長ぶりには、気持ちが暖かくなりました。
2人がそれぞれの道を生きる最後の1/3、ラストで杏平が遺品整理をしているシーン。あることにハッと気付いたその瞬間、感情が急激に込み上げ、目頭が熱くなり、声をあげそうになるのを必死で抑えました。
杏平はゆきちゃんに出会い、彼女がくれたモノは、きっと何物にも代え難いはず。だから、これからは迷わず前を向いて生きていけるよね…。もう、ひとりじゃない…!
人間、死んでいく時はひとり。
死後の凄惨さを知ってしまったから、その場から途方もない孤独と絶望が透けて見えるから、「ちゃんと生きたい」と心の底から思えるのかもしれません。主亡き家の中も、すべて《あの時の命》が積み重ねた営み。
こんなにも殺伐な現代だからこそ、この映画から人と人とが繋がり合うことが尊く思えました。
ただ、海岸での「"あの時の命"って何度も言ってみて」の件はどうなんだろう?妙にスベった感が…。
「プロレスラーみたいに聞こえる!」
いや、そのプロレスラーのモノマネをする芸人に聞こえます。
変に隠さず直接名前を出して叫んでも良かったのでは?
「アント〇〇イノ〇!!」って。