「そよそよしたえいが」キツツキと雨 きのこの日さんの映画レビュー(感想・評価)
そよそよしたえいが
なんていうか、「そよそよ」した映画だった。そよそよそよそよよ~。
こんな幸せな気持ちになれる映画は久々でした。日曜のお昼映画!
しかしね~、これは役所広司さんの映画ですわ。役所広司という俳優なくしてこの映画は撮れないだろうと。もうね、克彦という人物が可愛くて可愛くて仕方がない。あらすじ見た感じとか予告編見た感じでは、偏屈で頑固で寡黙な木こりが、現代っ子な感じの映画監督と出会って心をとかしていく・・・的な感じかと思ってたけど違った。むしろ逆。
口下手で、「イマドキ」のことにむとんちゃくで、なんかちょっとズレてて、だけど人のことがほっとけない克彦が、実際の息子の浩一と映画監督である幸一を重ね合わせて心を通わせていく。そこがよかった。多分予想通りの映画だったらまあほんとによくある感じの映画になってたと思うのですが、逆だったからすごくニコニコしながら見れた。
役所広司といえばシブイとか個人的にはこう大人の色気というかそういう役のイメージが強くて、今回そのイメージを完全に払拭してくれた。改めて偉大な俳優さんであることを思い知らされた感じでした。
わたし個人的な意見ですが、この映画は幸一と克彦の心のふれあいをテーマにした作品というよりはこの作品に出てくる登場人物すべての人間の魅力を2時間半かけてじっくり伝えてくれる映画だったように思います。ちょこっとずつ出てくるひとが全員可愛くて魅力的。なんだかんだええ人。その中でも特に克彦という人物の魅力、そして役所広司さんという俳優の魅力を堪能できる映画と言っても過言ではない気がします。
克彦さんったら、監督椅子に恥ずかしくて座れないっていう幸一くんのために、ヒノキの丸太で手作りした思いっきり「監督」って書いたあまりに立派な椅子を作ってあげちゃったりする。ほんで「どうや、これなら恥ずかしくないやろう!」って。そういうことじゃないんだよ!
かわいい~。ええ人すぎる~。ぎゃあ。
そんなこんなで今回の印象的なシーンは役所広司さんと高良健吾くん。
1.自分が写っているシーンを見て・・・
役所広司さん演じる克彦が始めて自分がゾンビとして映画に写っているシーンを見るところ。
めちゃくちゃちーちゃくしか写ってなくて本当に脇役なんだけど、それを見て克彦がすごく嬉しそうに笑うの。なんかもう可愛くて可愛くて仕方ないシーンなんです。このシーンの時に後ろに流れてる曲もぴったり合って、こっちまで嬉しくなってしまう。毎日田舎で同じような事をして過ごしていて、映画というイレギュラーなモノに対する喜びがやっぱりあるんだろうなっていう、なんというか田舎の人の可愛さがぎゅぎゅっと詰まっていたシーンな気がします。
わたしも田舎に住んでたので共感してしまいました。
同じようにすぎる毎日に不満があるわけでも絶望しているわけでもない。でもやっぱり閉鎖された空間に新しいものが入ってくる嬉しさとか自分が少し前に出られた喜びとか。言いようもないそんなじわりじわりとした感情が画面とそして役所広司さんの表情から伝わってくるシーンでした。
2.定職につかない浩一よ!!
会社をやめてしまって定職についていない実の息子の浩一。実際そのことで克彦と言い争うシーンも何度かある。
そして母の三回忌の日、親戚のおっさんからもそのことについてチクリと言われ浩一は半端に「はあ」ということしかできない。そしてまたその無神経なおっさんに「もう克彦さんの後継いだらええわ」と言われてしまう。
すると突然克彦が大声で怒鳴る。
「こいつの気持ちもあるやろうが!」
親父!!!どんだけええ親父!!!!
その時の高良健吾の表情がいい!
びっくりして、そのあとすごく嬉しそうにそっとはにかむ。ナイス表情。
なんか、男親と息子の関係が垣間見えたようなシーンだった。
でもこれ以外にも素敵なシーンはいっぱいいっぱいあります!
物語の中核となるシーンも。
そんなにこう盛り上がったりワオワオ!ってなったりするシーンがある映画ではないですがそよそよ見れるほんと素敵な映画です。これぞ邦画とわたしは思ったりします。