「母の優しさが切々と胸に、生きている事、家族に恵まれる事に感謝したくなった!」わが母の記 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
母の優しさが切々と胸に、生きている事、家族に恵まれる事に感謝したくなった!
先ず一番にこの映画で素敵だなって思えた事は、非常に情景カットを初めとして、映像的に美しかった事。と書いたら、えぇそれが何、どうした?本編とどう繋がるのと反論が返ってきそうだが、つまり、今から50年前の日本の匂いが溢れ出ているって思えたのです。
今ヒット中の「3丁目の夕日64」は本当の昭和30年代では無く、みんなの心の中の昭和のイメージの再現と言われているように、古臭い小道具があっても、セットばかりで、何か嘘っぽい感じがしていたのに比べると本作は、四季折々の自然の美しい景色を存分に映している事で、高度成長期を迎える頃の日本の香りがして、それと共に人々の息使いも今より、ゆっくりと流れていた時間の様子がとても心地良く、安心して映画の世界に溶け込む事が出来た。
昭和のあの時代は、一家の主人たる者は、雷親父と相場が決まっていたし、その親父の機嫌を損ねると卓袱台をひっくり返すさんばかりに振る舞う理不尽な世界が普通の時代。だから気難しい作家の家庭で、そして八重が沼津から来ると3世帯の大家族になり、てんてこ舞いになる。その様がとてもリアルで、きめ細かく描かれていた。
長男である伊上洪作はずっと母の八重に自分一人が捨てられたと思い悩んで生きて来たけれど、その母が徐々に認知症を患ってゆく中で、その息子を誰よりも大切に思い続けて生きて来た事を知る。
洪作と母、そして洪作と娘たち、そして八重と孫娘たち、同じ家族の中でもそれぞれの立場で、その距離の取り方の違いや性格の違いが出てくる。八重に対する想いも皆違うし、そんな身近で大切な家族同志であるからこそ、可愛さ余って、時に憎しみが倍増してしまうと言う悲しさも切々と伝わってくるのだ。
そして少しずつ壊れてゆく八重を軸に、洪作の気持ちも徐々に変化し始めると、その変化の輪は、その他の家族同志への理解へとどんどん広がりを見せ、お互いの家族の気持ちの理解の輪が、どんどん広がって、年月と共に人間として成長していく様子が手に取る様にあぶり出されてゆく。
徘徊する高齢の母を抱える家族の苦悩を時に、笑いを誘うように描いているけれども、それだけに、決して笑う事が出来ない、当事者家族の苦悩がより深く伝わってくる。
その一方で、お互いが苦悩する中から、解り合う気持ちが芽生える事で安らぎを憶えてゆく、大家族ならではの貴重なプロセスがとても、観ている私に安らぎを運んでくれた。
老いとは、どんなに嫌っても、いずれは誰でも避ける事は出来ずに、体験していかなければならない問題だけれども、必ずしも憎むべき事でも、悲しむべき事でも無く、人として生きていくプロセスの一コマであり、家族にとってもとても理解を深め合うためには必要不可欠なプロセスの一つであることが伝わってくる。
役所広司、樹木希林両人の芝居が素晴らしいのをはじめ、みな、それぞれ役者陣がとっても個性的な芸達者なキャストばかりが出演して、配役もとても自然で映画を存分に楽しむ事が出来た。家族を描く日本映画は素朴でも、素晴らしい感動を提供してくれるのだ!!