「情景、心情、親子愛…丁寧に紡がれた作品」わが母の記 覆面A子さんの映画レビュー(感想・評価)
情景、心情、親子愛…丁寧に紡がれた作品
役所広司さん演じる伊上洪作(≒故・井上靖)と
樹木希林さん演じる洪作の母・八重が織りなす母子愛の
お話ということで、もう「涙」は決定です。
タオルハンカチ持参で行きました(笑)
本編は、いきなり初っ端…回想シーンから始まるのですが、
【設定からしては幾分、若いかな?】と思える、
ある女優さんが樹木希林さん演じる「八重」の往年役として登場します。
そのわずかな回想シーンが、
この映画全編の屋台骨を支えていると言えなくもない気がするんですが、
セリフもない短いシーンながら、とても良い演技でストーリーを印象付けていました。
その重要な役どころは八重と同じ「眼」をもつ、
樹木希林さんの愛娘・内田也哉子さんでした!
私は最初気づかず、後の回想シーンで気づきました。
その位、短いコマですが怪物女優樹木希林の演技を大切に繋ぐべく丁寧かつ【強い女性】を演じられています。
なんかそういった意味では三浦友和・百恵さん夫妻の次男で友和さんと同じ「眼」をもつ、
三浦 貴大さんが出演されていたり(こちらも良い役者さん♪)
色んな所で「親と子」を感じさせる映画で。。
そんなところまで狙ってないかもですけど。。
で、作品の感想としては、話の縦横がとても上手に、
そして丁寧に織りなされた作品だと思いました。
例えば八重にとっては孫となる洪作の三女、
宮崎あおいサン演じる「琴子」が八重に
「子どもの頃のお父さんはどんなだったか?」と尋ねた際の
八重に似つかわない、「八重らしからぬ答え」が後の重要な伏線となっていて、
その伏線の意味が氷解した時に「ああ、もう一度丁寧に観返したい」って心から思ったり。
井上靖さんの「しろばんば」などでも有名な通り、
役所さん演じる「洪作」は母と引き離された少年時代を過ごしていて、
そのことが母へわだかまりを残しています。
それ故、痴呆が進んでいく中での母への態度は
ちょっと意地悪だったり、卑屈だったり、恨みがましかったり…非常に人間的です。
多感な時代を母と分かれて暮らしたことを、その選択をした母親を作家として大成した後も恨み続ける洪作。
自分の娘たちに過干渉するのも、それ故じゃないかと思えるほど何度も何度も執拗に「母は自分を捨てた」と言い続けます。
でも、「信じることも愛なのだ」という事が分かった後の、娘にかける言葉「捨てる訳じゃないからな!」という台詞は秀逸、非常に台本や構成の丁寧さを感じました。
それにしても樹木希林さんは凄い!
「痴呆がさせること」という設定とはいえ、すんごい嫌なババァをぬけぬけと演じ、ある時はコミカルにある時は憎々しく、そして落とす所では、サラリと…それでいて本当に重く落とす。。
凄い女優さんだなぁと改めて思いました。
正直、前半は結構眠たい緩くタルイ流れです。
ただ全編を通して映像がすんばらしく美しかったので
最初は、「叙情的なだけの作品」かと思って「それでもいいかな…」と思った感じで。。
でも後半から必ずグっときますので、前半は情景メインで楽しんでください。
映像美はこの映画の重要な横糸になっている気もします。
GWを実家で過ごす方は公開日にこれを見に行って親への思いを強めてから行くと接し方が変わって来るかもしれません。
最後になりますが、そしてどうでもいいことですが三國連太郎さん。。。。年を取りましたね。。
それでも、とても強い存在感を示していらしました。