莫逆家族 バクギャクファミーリア : 映画評論・批評
2012年9月4日更新
2012年9月8日より新宿バルト9ほかにてロードショー
往年の東映実録ヤクザ映画のような男くささを放つ暴力活劇
むくつけき異貌の男たちが画面に現れるや、絶えず怒号が飛び交い、血しぶきが飛び散り、壮絶な殴り合いが果てしなく延々と繰り返される。まるで井筒和幸の「ガキ帝国」と往年の東映実録ヤクザ映画をブレンドさせたような男くささを濃厚に放つ活劇だ。
かつて暴走族のトップに君臨した伝説の男・火野鉄(徳井義実)は、家庭を持ち、小市民的な生活に埋没する日々を送っているが、昔の仲間の娘が不良に暴行されたのがきっかけで、メンバーが再結集され、熾烈な闘いが始まる。
鉄をはじめ登場する大半の男たちは、皆、親に遺棄された不幸な過去を背負っており、彼らは、血のつながりよりも、グレート・マザーのようなドンばー(倍賞美津子)を中心とするコミューン=疑似大家族によってかろうじて、心を慰撫され、庇護されているのだ。そのかけがえのない紐帯を確認するために、彼らは捨身の反撃へと向かうのである。
主人公を演じる金髪に染めた漫才コンビ・チュートリアルの徳井義実の不敵な面構えがスクリーンによく映える。幼少期から<不在の父>のイメージに憑りつかれたまま、グレた息子にも向き合えない不甲斐なさから、一転、強い父性を自ら体現する変貌ぶりがあざやかだ。夕景の中、ゆるやかに回転する大観覧車のイメージが、何度かフラッシュバックされるのが印象的だが、鉄のオブセッションの原光景であることが明かされるラストシーンは心に沁みる。
熊切和嘉監督は、デビュー作「鬼畜大宴会」以来、暴力描写には過剰なまでのこだわりをみせるが、本作では、久々に全体のバランスを無視するほどに、その資質を全開させている。
(高崎俊夫)