劇場公開日 2012年9月8日

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莫逆家族 バクギャクファミーリア : インタビュー

2012年9月6日更新
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「チュートリアル」徳井義実、笑いなし、本気でぶつかった初主演作

バラエティ番組などでコンビとして幅広い層から人気を集め、一方でピンとしても着実に実績を残し続けている“男前”お笑い芸人「チュートリアル」の徳井義実が、初の映画主演を果たした。熊切和嘉監督の「莫逆家族 バクギャクファミーリア」は、大人になった“元”不良たちの間に息づく、荒々しくも重くヒリヒリするような絆を描く物語。金髪に肉体改造など、「初めてづくしだった」と現場を感慨深げに振り返る徳井が、笑いとは異なる“演じること”について、素直な思いを語った。(取材・文・写真/奥浜有冴)

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田中宏の大ヒット漫画が原作の本作は、数ある不良の青春ドラマとは異なり、不良たちの“その後の人生”を鮮烈に描く。かつて17歳で関東一の暴走族のトップに立った火野鉄(徳井)は、今は現場作業員としての仕事に明け暮れる大人になっていた。やり場のない鬱屈した思いを抱える日常に生きながら、家庭では反抗期の息子・周平(林遣都)から完全にナメられてしまっている。そんなある日、当時の仲間・横田あつし(阿部サダヲ)の娘が暴行される事件が起こる。家族同然だった横田の悲劇の落とし前をつけるべく、数年ぶりに終結した鉄ら仲間の面々は、再び心に炎を燃やし始める。

演技経験はあるものの、激しい格闘シーンや“父親”で“元不良”という、当人にとって未知の要素が多く求められた役柄について、徳井は「自分の中にないものを、引っ張り出して演じさせてもらったことはとても大きい。役者としての出来不出来はわからないけど、やり遂げられたという達成感は感じています」と控えめな表情で語る。

芸人としての姿を見る限り、他者に対して怒りをぶつけるイメージなどまったくない徳井だが、劇中では激しい憤りを爆発させるシーンが数多く出てくる。いまだかつて見たことのないような表情を、見事な迫力で熱演。「やりながら『あ、こうなるんや』って自分で自分に対して感じていましたね。基本的に温厚な人間なので、思いっきり怒る感情ってなかなか出さないんですよ。僕の人生において、こういう状態になったことはないと思います」

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もちろん怒りだけでなく、父親としての懐の深さの表現や、男同士の友情ならではのせつない雰囲気を求められるパートも多い。特に仲間を追って走るシーンで見せた背中は、闘う男の色気をしっかり表現している。「そこを感じていただけるとありがたいですね。やっぱり学生同士の普通のケンカじゃない。大人の男たちが色々な思いを抱えながらの闘いを描いているので、哀愁とか、見えない空気感を出さないといけないなあと思っていたんです」

父親という設定については、自身の親を意識したかと尋ねると「最初は特に考えてなかったんですけど、徐々にだぶらせてしまっていましたね。『このセリフ、どういう感じで言った方がいいんやろ』って迷ったりすると、ふと思い出すんですよ。『ああ、あの時のオヤジ、こんな感じだったな』って。親子間のコミュニケーションの取り方も、少し似ている部分もあったりして」と、目を細めて思いをめぐらせる。

クランクイン前から、“役者として大化けするかも”と期待を寄せていた熊切監督は、大半の場面を徳井に自由に演じさせた。それは、台本に書かれていない役の精神状態や、感情の変化をしっかりと理解させていたからだ。徳井自身が元来持っている要素の中から、どこを切り取って出してくるかということを、完全に本人に託す姿勢を貫いた。

「自分なりのプランでぶつかりました。『はいOK』って言われて、『あ、よかったんやな』って思う、その繰り返し。僕、すごく慎重な性格なので、正直なところ迷うことも多かったんですよ。でも本番で中途半端なことをするのは最もよくない。『違うんやったらそう言ってくれるから、思うようにやってみよう』と開き直って演じていました。全面的に監督を信頼して臨んでいましたね」

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お笑いの人間が映画出演する際、さまざまな見方をされる。本人のキャラクター性が世間に認知されていればいるほど、良い面・悪い面両方のベクトルが同比率で語られてしまうきらいがある。その辺りの“役者”徳井への客観的な目線をどう考えているのか、率直な気持ちを聞いてみた。

「芸人が映画に出る時の“出方”って、やっぱりあると思うんですよ。芸人としてのキャラクターを引きずったまま映画に出るパターン、つまりふだん見せているような“笑い”の部分を求められて出演するパターンがひとつの方法としてありますよね。でも、僕の場合は芸人の感じのまま出るということが、多分できないんです。そういうタイプじゃないと思っていて。であれば、ちゃんとやらせてもらおうと。笑いがないならないなりに、ちゃんとやらせてもらおうと。その辺は常に心に留めておきながら、現場に入っていました」

あくまで素材として挑んだ本作。そのことがダイレクトに伝わるのが、緊迫感あふれる格闘シーンだ。「全力で向かっていくのみでした。強烈に印象に残っているのが、村上淳さんとのやり合いなんですけど、本気でぶつかってくれているのがわかるんですよ。何とか必死について行こうという気持ちになりながら、同時に実力以上のパワーを引き出してもらっているような感覚でした。本当に、温かさもありアクションもありのすごい映画。改めて、見ごたえのある作品に仕上がったと感じています」

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