劇場公開日 2011年7月16日

  • 予告編を見る

「この役者魂を笑い飛ばせ」大鹿村騒動記 かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この役者魂を笑い飛ばせ

2011年7月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

楽しい

拙ブログより抜粋で。
--
 しかして、原田芳雄である。

 筆者がこの映画を観たのは7月19日。そう、彼が永眠された日。
 当初よりこの映画は観るつもりで、前日には公式ホームページを見たりしてたんだけど、この日突然の訃報を聞いて日を選ばずすぐさま劇場に駆けつけた。
 享年71歳。俳優としてまだまだ活躍盛りでの早すぎる死に、劇場では本編終了後、自然と拍手が湧き起こった。
 自分も拍手を贈りながら、改めて本作が原田芳雄最後の映画であることを噛みしめた。

 大鹿歌舞伎で映画が撮れないかと持ちかけたのは原田芳雄自身からだそうだ。
 この題材に俳優として感じ入る何かがあったんだろう。

 地芝居は神に捧げられた各地の奉納芝居に端を発するが、それが都市部で流行する見せ物としての歌舞伎となり、さらに旅芝居として地方を巡り、それを観た農民たちが娯楽として自ら演じ始めたのが今各地に残る地芝居、村歌舞伎なんだそうだ。
 原田芳雄は演じる村民の姿に役者としての原体験を見たのであろうか。あるいは長い俳優生活を経て、ここにたどり着く運命だったのか。

 俳優・原田芳雄は、くしくもこの遺作の中で“役者”の役を演じている。
 昨年秋のこの映画の撮影中、すでに病魔との闘いの真っ只中にあったとの報道もあるが、映画の中での彼の表情は喜々として、とてもそれを感じさせない。
 それは役者の役を通して、役者であること、演じることの喜びを最期の力を振り絞って表さんとしているかのようだ。いや、最期まで役者でいられることの喜びを全身全霊で満喫していると言った方がよいか。
 かくして「仇も恨も是まで是まで」の決めぜりふ。

 日常のいかんともしがたい悲喜交々の中で担う芸能の役割。
 いつの世も絶えぬ苦難や哀しみを乗り越えるべく村民が守り続けた地芝居にその答えがあるとこの映画は伝える。
 原田芳雄はさらに身をもって、それを体現してしまった。俺のことなんて笑い飛ばせと言わんばかりに。

 死の間際まで役者をまっとうし、演じることの原点を見せてこの世を去った名優に、合掌。
--
全文は『未完の映画評』にて。

かみぃ