「舞台に上がるのは逃げているのではない。戦っているのだ。」大鹿村騒動記 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
舞台に上がるのは逃げているのではない。戦っているのだ。
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痴呆の進む妻に振り回され、家庭も仕事もつまづきっ放しの日々に憤慨し、歌舞伎の舞台が唯一、日常から解放できる世界だと生き甲斐を見いだそうとする。
そんな不器用な男を渾身の演技で表現する原田芳雄の牽引力に終始、魅力され、笑顔と涙が溢れるひと時であった。
苦悩する主人公を尻目に飄々と過ごす岸部一徳&大楠道代の当事者コンビのノンキな滑稽ぶりが、悲惨な状況を和らげ、笑いを誘うから何とも皮肉である。
だからこそ、村人達は歌舞伎の成功を目指し、一丸となっていく。
様々なトラブルに七転八倒する主人公達を役場職員の松たか子や役者仲間のでんでん、石橋蓮司etc.が優しく見守り、交流の輪が築いていく。
荒々しい口調でも根強い絆が伝わってくるやり取りにコミュニケーションが希薄な今、なおさら人情の味ってぇヤツが恋しくなる。
歌舞伎の舞台上でしか真っ当に意思疎通ができない夫婦は、残酷なのに妙に微笑ましく、不思議な2人の距離感が、メインの大鹿歌舞伎へと繋がっていく。
ゼンさん、お疲れさんでした。
そして、ありがとう。
原田芳雄さんの復活と感謝の願いを込め、最後に短歌を一首。
『鹿泣いて 帰る嵐の 舞台でも 千両役者は 幕を降ろさず』
by全竜
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