「よっ!千両役者!!!」大鹿村騒動記 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
よっ!千両役者!!!
大鹿歌舞伎を中心に据えた物語。
江戸時代、非行化したり、江戸に流入するのを止めたりするために、若者に熱中できるもの、村おこしにと、都会から歌舞伎役者を呼んで始めた歌舞伎。巡業の歌舞伎をまねて始めた歌舞伎と結構いろいろなところにあった地方歌舞伎。ほとんどが廃れてしまったが、今も埼玉とか人知れず地道に残っている地方歌舞伎。そんな歌舞伎の一つであろう大鹿歌舞伎。
ゆる~い物語。
「若気の至り」が40代の出来事で、「若くないだろ!」と突っ込まれはするものの、それから18年。すでに”老境”に片足突っ込ん人々が織りなす物語。
緩さが心地よい。
オムツをしているころから一緒にやってきた仲間だから。喧嘩しては仲直りしてきた仲間だから。
しかも、”伝統の歌舞伎”を成功させるために、仲たがいしてもなんとか折り合いをつけてやってきた仲間だから。
憎みたいけれど憎めない。排除できない。そんな絶妙な葛藤がにじみ出てくる。そんな割り切れない心情を見事に表現して見せてくれる原田氏がいい。
憎みたいけれど憎めない男を演じている岸部さんも圧巻。
同じように憎みたいけれど憎めない女を演じていいる大楠さんは、さらに女の業、そして大人の女の責任の取り方もちゃんとわきまえている女を演じきっていらして格好良い。
だから、この三人に感化されて一歩を踏み出す、佐藤氏と松さんが”青二才”にみえるし、とっても自然な流れを醸し出す。
かつ、そんな三人を見守る歌舞伎仲間がいい味を出してくれる。
特に、三國氏の存在感。原田氏演じる善さんが泣き言を漏らしに行く場面で、唐突なロシアでの話。あんな風に切り出されちゃったら、「頑張ります」というしかないよなあ。
実直そのものなんだけれど、古狸の面目、煙に巻くという、ぬらりひょんか?!といいたくなるようでいて、この人のためなら一肌も二肌も脱ぎたくなるような、それでいて有無を言わせない人物も、三國氏が演じると至極自然に見える。稀代の名優だと思う。
そんな芸達者たちが、名優と謳われた歌舞伎役者を演じさせてもきっちり演じ切るであろう役者たちが、地方のボランティア歌舞伎役者をそれらしく演じ切る。ちょっとした調子外れも計算のうちであろう。
大鹿歌舞伎の演目。「恨みも仇もこれまで」と未来に向けて大円団になる物語。
そんな演目をベースに、善さんを取り巻く物語とが相まって展開する。
人生経験を重ねてきたからこその境地。
愛おしくもおかしみのある物語。
こんな風に、私も大円団を迎えたいと思った。
<蛇足>
昭和世代にはこそばゆいネタも満載。
「ディアイーター」って『ディア・ハンター』かいっ?何度か読み直してしまった(笑)。
原田氏が歌う『おら東京さ行っただ』『木綿のハンカチーフ』も感慨深い。
「居残り佐平治」は落語ネタ。フランキー堺氏で『幕末太陽傳』として映画化もされている。
他にも、私が気が付かないだけであるかもしれない。