「「東京の真ん中には巨大な公園がある」」東京公園 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
「東京の真ん中には巨大な公園がある」
「東京の真ん中には巨大な公園がある。」実際に東京に住んでいると気付かないものだ、東京にこれ程沢山の公園があったということに。
暴力や犯罪のない、穏やかで優しい空気感に驚いた。今回の青山監督は何かが違う。全編緩やかにふんわり柔らかく進む、青山監督が辿り着いた新境地。
まず印象に残るのは、ある意味本作の主役と言っていい公園の美しさ。色づき始めた木々の中を、落ち葉を踏みしめて歩く、ドット柄の赤いベビーカーを押す井川遥の美しさ。ミセス・ファッション誌から抜け出たかのような、上品で上質なカジュアルは観ているだけでうっとりする。最後まで一語も発することなく作品に華を添えている。
井川を含む女性陣が美しい。主人公の義姉である小西真奈美の勝気な凛々しさ、親友の元カノである榮倉奈々の無邪気な愛らしさ。しかし2人は心の中に大きな苦しみを抱えている。その苦しみが物語の終盤で解き放たれ浄化する過程が切なくも清々しい。
しかし本作の穏やかで優しい(あるいはのんびりとゆるやかな)最大の要因は三浦春馬演じる主人公のキャラクターだろう。彼はいわゆる今時の草食系男子だが、人の心に鈍感なのだ。だがその鈍感さは決して無神経さからきているのではなく、あくまで素直な性格から来ているので嫌味がない。彼は義理の姉や友達付き合いしている親友の元カノの恋心に全く気付かない。それどころか自分自身の恋心さえも。彼の鈍感さは人に対してだけでなく、同居人(?)である死んだ親友(!)に対しても、彼が何故未だに自分の側にいるのかも深く考えない。「成仏したいのならお祓いしようか?」と言う始末(←そういうことじゃないんだよなぁ)。余談だが染谷将太演じるこの幽霊の登場に驚かなかったことに驚いた(笑)。普通にゲームしたり昼寝したりしている彼を、主人公とどういう関係なのか(友人なのか、弟なのか)と思いながら観ていたが、正体が明かされた時「なんでやねん!」というツッコミではなく、「なるほどなぁ、どうりで顔色が悪いと思った。」と納得してしまったのだ。この幽霊の存在に違和感を覚えなかったのも、全て本作のどこかファンタジーめいた優しい空気感のせいだ。
被写体として何枚もの写真を撮っている女性が幼い頃亡くした母親に似ていることにも気づかない程鈍感な彼だが、周囲からの助言(相談に乗ってくれるバイト先のマスターがゲイというのが今っぽい)もあり、自分や相手(義姉、親友、親友の元カノ)のそれぞれの本当の気持ちを知ったうえで、きちんと答えを出した彼が、自分よりダメダメな大人の男に、キッパリと苦言を呈する姿に成長を感じ温かい気持ちになる。
現代人は忙しい、自分の気持ちや人の気持ちを思いやるヒマがない。日々の雑務に忙殺される中で溜め込むストレスを、公園で癒すゆとりを持たなければと思う。「東京の真ん中には巨大な公園がある」ことに気付けたら、きっと穏やかで優しい気持ちになれるだろう。