「映キチとしても、喰い道楽としても、唸ってしまう美味なる一本」極道めし 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
映キチとしても、喰い道楽としても、唸ってしまう美味なる一本
食をテーマに、刑務所という怖いモノ見たさの象徴をどこかホノボノと追った名作『刑務所の中』の世界観を継承した今作は、房のメンバーがおせち料理のオカズをかけ、お互いが自負する美味い料理の話を語り合う形式を敷き、グルメ談義を更に掘り下げ、独自の面白さを構築している。
過ちを犯したそれぞれの背景やツラいお務めetc.のプリズン映画に付き物のエピソードはほとんど二の次で、めし弁論バトルに一喜一憂する展開は、幸福とは真逆の最悪の場なのに何故か牧歌的であり、人間味豊かな雰囲気で観客も優しく包み込む。
聞き手の喉が鳴ったら1ポイントというシンプルかつ呑気なルールの下、繰り出される激闘は、絶えず陳腐な回想シーンが付きまとい、ゲーム感覚が先行し、フザケ過ぎな印象は否めない。
しかし、なぜこの料理をイチ押しするのか、持論に熱を帯びるに連れて、背負った物語も明かされていく。
一見、馬鹿馬鹿しいだけのお遊びが面白味をキメる大きなミソと化しているのが興味深い。
オムライスやインスタントラーメンetc.いずれもありふれた一品ばかりだが、どれも魅力的なオーラを纏っている。
料理への情熱に笑う要素と並行し、当初、軽蔑し、心を閉ざしていた新入りのヤクザが如何にしてバトルに参加するかという人間ドラマも丁寧に盛り込まれており、人情味のスパイスも忘れちゃいないのも粋で罪な味付けと云えよう。
故に、紆余曲折を経て、同部屋の全員がわだかまり無く卓を囲んだバトルの顛末はヨダレ以上に涙が零れ落ちてしまった。
それは、料理の温もりが愛する人との触れ合いの密度と直結しているからなのかもしれない。
今後、ヤバいコトしでかす予定はないけど、未だに記憶に残る料理は誰しもが1つや2つは海馬の片隅にでも有るはずだ。
もし、私なら何の料理をネタにして挑もうか?と重ね合わせて観るウチに罪人であろうが、親近感を覚え、応援してしまうのである。
料理は食べるより作る事に本当のドラマが込められているのかもしれませんね。
チョイとクサい話の〆方に自ら鼻をツマミながら、最後に短歌を一首
『想いでを 背負ひて囲む 暮れの房 呑み込む唾が ヤケにしょっぺぇ…』
by全竜
ごちそうさまでした
m(_ _)m