「山田洋次監督からの復興と再生への祈りの作品だ」東京家族 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
山田洋次監督からの復興と再生への祈りの作品だ
小津安二郎監督へのオマージュ作品として制作されずに、この作品を単独作品として観るなら普通にハートウォーミングな日本の家族映画として良作だと思うのだ。
或る日、年老いた両親が田舎から、都会に移り住んだ子供達の様子を見に訪ねて来ると言うストーリー展開だけをオリジナル作品である小津作品と同様にし、その他の部分は全く別の作品として創られていた方がきっとしっくりと腑に落ちる良い作品として記憶に残す事が出来ただろう。
例えばファーストシーンの幸一の長男と母文子のセリフや、滋子と文子の会話等は同じ様なセリフ廻しをあえてする必要は無かったように思えた。「東京物語」と否が応でも比較してしまうと言うより、似通ったセリフが出て来ると、自然とあの名作が頭の中で蘇ってしまい、気付くと無意識の内に比較対象をしながら本作を観ているのだ。そうなると邦画の神様である小津監督が制作したオリジナル作品を越える作品を制作する事は、巨匠山田監督でも、誠に残念ではあるが不可能である為に、返って違和感を覚えずにはいられなかった点が有り、とても残念でならない。
ところで、2012年にも10年に一度選出される、英国映画協会の監督が選出する世界のベスト映画ランキングでも小津安二郎監督の「東京物語」は堂々ベスト1に輝いたと言う事だ。
何時の時代も、親が子供を無償の愛で思う程には、子供はそんな親の気持ちが理解出来ないと言うジレンマは世界共通の人間のマインドなのだろうか?
自分も子供の親となり、子供を育てる過程に於いて親の気持ちは理解し、親の有り難味が身に沁みて解り感謝の気持ちは持てるのだが、しかし同時に幾つになっても、実の親に対しては、何処かに甘えが生じてしまう。そんな甘えの一例に、親の死はズーッと先の事と勝手に思い込み、家族に対しては、一期一会と言う気持ちで日々暮せないのも、これも人間の甘えの一部分でもあり、哀しき習性なのかも知れない。
山田監督作品、しかも「東京物語」へのオマージュ作品と言う事で、俳優さん達は皆さんとても素晴らしい芝居を繰り広げて下さり、観ている私は、とても得した気持になれて、感謝しています。かなり泣きました。
平山周吉と沼田の飲み屋のシーンなどは、山田監督からみて、今の日本の有り様が、何処かでボタンの掛け違いをしてしまっている様に感じられて、未来を担う日本の人達への監督の心の叫びの代弁の様にも思えた。
小津作品は、日常の家庭の平凡な日々の生活の中にこそ、人間の普遍的な生きる真価と幸せを見出して表現した訳だが、それと同時に敗戦後の日本の未来を担う人々へのエールでもあった様に思うのだ。
そして本作は、311後の我が国の復興への祈りが込められた山田作品である事は言うまでもないが、この作品を観て改めて、被災された方々の日々の生活が少しでも回復へと向かう事が出来る様にお祈りさせて頂きます。日本人の忘れていた心をありがとうございました。