劇場公開日 2013年1月19日

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東京家族 : 映画評論・批評

2013年1月15日更新

2013年1月19日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

小津の代表作という意匠を活用して、大船調の家族ドラマを再創造した山田洋次の集大成

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山田洋次小津安二郎の「東京物語」をモチーフに撮ったと喧伝されているが、主要キャラクターの役名、職業設定、肝となる名台詞がほぼ踏襲されている点でリメイクと断じてさしつかえない。世界映画史上に屹立する小津の名画は、家族のゆるやかな崩壊を深い諦観をもってとらえ、今なお時代を超えた普遍的な感情を喚起させる。とりわけ、戦死した次男の未亡人紀子(原節子)が後半、戦争の不穏な影をシンボライズする存在として大きく浮上してくる作劇が見事だ。

現代を舞台にこの古典を再生するにあたり、山田は戦争の傷痕の代わりに、東日本大震災という悲劇をクローズアップする。「東京物語」では不在だった次男昌次(妻夫木聡)を召喚させ、被災地でのボランティアで知り合った婚約者紀子(蒼井優)が、原節子と同様に、ドラマの後半を牽引することになる。

スローな口調で脱力気味な母親を好演する吉行和子をはじめ女優陣が健闘するなか、ひどく気になるのが長男を演じる西村雅彦の小津映画の人物を中途半端に模倣した奇怪な台詞回し、それに長女の夫を演じる林家正蔵の腰の据わらぬ浮薄な芝居だ。このふたりはどうにも全体の演技のアンサンブルを壊している印象が否めない。

山田は、おそらく小津特有の相似形の人物配置、ローアングルなどの極度の様式化、そして、その果てに現前する残酷なまでの現実凝視には興味がないのだ。むしろ小津の代表作という意匠を巧みに活用しながら、自らを育んだ伝統的な大船調のヒューマンなホームドラマを再創造したのだといえよう。

高崎俊夫

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