「映画(≒チャップリンの滑稽)×舞台(≒バレエの躍動美)=(映画+夫婦)愛2乗」ダンシング・チャップリン 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
映画(≒チャップリンの滑稽)×舞台(≒バレエの躍動美)=(映画+夫婦)愛2乗
第一幕では、厳しいリハーサルと難航する打ち合わせ模様を、
第二幕では、総力を舞台に費やした圧巻のダンシングシーンとの2部構成で、ステージの表裏の一部始終を赤裸々にかつ、ダイナミックに銀幕に収めた力作と成っている。
バレエを扱った映画では、先日観たナタリー・ポートマンの『ブラック・スワン』の痛々しさが強烈過ぎて、バレエへの敷居の高さを痛感していたが、そんな苦手意識を払拭する面白さが詰まっていた。
チャールズ・チャップリンが築き上げたサイレント映画でのパントマイムと、舞踏だけで物語を表現するバレエとは楽しみ方が共有化しやすいジャンルであるため、直ぐに入り込めたのも大きい。
しかし、一番の要因は、プロフェッショナルに徹した周防正行&草刈民代夫婦に本物の完璧主義者の境地を陶酔できた事に尽きるであろう。
オリジナルを踏襲しつつ、映画の要素を取り入れ、単なる舞台中継にならないよう知恵を絞り、編み出した周防正行のプロットを、
草刈民代は『キッド』の少年から、『街の灯』での盲目のヒロインetc.幅広い役柄を天性の美貌とダンスで颯爽と舞い、見事に引き継ぎ、体現している。
主役のチャップリン(ルイジ・ボニーノ)に引けを取らない牽引力は、ナタリー・ポートマン以上に活き活きとした躍動美と妥協を一切許さない演技への厳しさを誇っており、2人の絆でなければ絶対に実現不可能だったと云えよう。
特に『街の灯』における浮浪者と盲目の花売り娘との結ばれない愛は、残酷な美に包まれており、無意識に鳥肌が立ち、涙が零れた。
つまり、2人の夫婦愛を舞台と映画を融合させ、計算すると、
映画(≒チャップリンの滑稽)×舞台(≒バレエの躍動美)=映画愛2乗
という方程式が成り立つ。
さすがに、『黄金狂時代』での革靴を食べるシーンや、『モダンタイムス』でのボルト発作etc.名場面は登場しないが、少しチャップリン映画をカジった者ならば直ぐに連想できるラインナップは映キチに嬉しい味付けだ。
緻密なディテールで織り成す2部構成のため、観客は長時間向き合うスタミナと集中力を覚悟しなければならない。
しかし、一級のエンターテイメント特有の心地良い疲労感に浸れるのは間違いない作品である。
では、最後に短歌を一首
『美と滑稽 舞台狭しと 喜劇王 銀舞い降りし 夫婦髭かな』
by全竜