ブルーバレンタイン : 映画評論・批評
2011年4月5日更新
2011年4月23日より新宿バルト9、TOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
恋して結ばれた後に一緒に生きていくことの難しさ
「愛するとは決して互いに見つめ合うことではなく、一緒に同じ方向を見ることだ」というサン=テグジュペリの深遠な言葉(「人間の大地」第8章)を思い出した。この「ブルーバレンタイン」はまさに、同じ方向を見つけられないカップルの物語だからだ。
優しくてチャーミング、そしてあくまでもマイペースな夫は、世界と引き換えにしてもいいと思うほど深く妻を愛し、妻だけを見つめている。だが、家庭以外にも自分の人生に目的を見つけたい妻には、夫の眼差しが重すぎる。その眼差しを二人の人生の先にあるものにも向けてほしいのに、妻を愛することで人生を完結してしまった夫は、外の世界へ踏み出そうとしないのだ。
こんな煮詰まった夫婦の現在と、出会って恋に落ち、結ばれるまでの弾む日々がカットバックで描かれていく。夫の愛すべき人柄、男性経験は豊富だが愛される喜びを初めて知った妻の幸せが、みずみずしい映像とともに胸にしみ込んでくる。それだけに、結ばれた後の人生をどう作っていくか、二人の人間が一緒に生きていくことの難しさが浮き彫りになった。女性が自分の人生を設計する時代にふさわしく、同じ方向を見つめられるパートナーの重要さを実感させる映画だ。その一方で、尽くして仕えて愛してくれる夫も悪くないなんて考えもちらり。オバちゃんになった証拠かな。
(森山京子)
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