ファースター 怒りの銃弾 : 映画評論・批評
2011年5月17日更新
2011年5月21日よりシネマスクウェアとうきゅうほかにてロードショー
想定外の濃淡とサスペンスを味わえる拾いものの快作
敵役<キラー>の携帯の着信音は「続・夕陽のガンマン」のテーマ曲だ。これは嬉しい。こうした小ネタに気が回っているということは作品をかっこよく仕上げたいという現場の空気を象徴する。モリコーネの使用はタランティーノが視野に入っているといっていいからだ。これは拾いものの快作だ。拾いものとはこういうことである。
タイトルからくるイメージ、銃を手に仁王立ちしたドウェイン・ジョンソンの姿からストレートでチープな復讐劇を想定していた。出所した<ドライバー>=ドウェインが問答無用で復讐戦に突入……と。ところがフラットなストーリーラインに意外な濃淡、サスペンスが隠されていた。その濃淡はたとえば彼を追う<コップ>=ビリー・ボブ・ソーントンの息子の存在だ。野球をやっているが肥満ゆえに補欠止まり。その彼を妻との復縁の切り札として卑屈なまでに持ち上げるソーントン。また若くスマートなセレブの<キラー>には、幼年期の難病というトラウマを与えている。<ドライバー>が失ったものはもちろん時間だけではない……。
濃淡を生むこの脚本がなかなかにくせ玉で、これが実に楽しめるのだ。リングネーム=ザ・ロックことドウェインの肉体ならたいていの難事に無敵だろうと観客は期待するし、その期待値の高さを製作側も裏切れない。それを前提にしてのひねりの快感をおそらく観客のだれもが感じるだろう。
(滝本誠)