スリーデイズのレビュー・感想・評価
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【85.8】スリーデイズ 映画レビュー
映画『スリーデイズ』(2010)総合批評
ポール・ハギス監督による2010年のサスペンス・スリラー『スリーデイズ』。愛する妻が殺人罪で投獄され、その無実を信じ続けるごく普通の大学教授が、絶望的な状況下で妻を脱獄させ、国外へ逃亡させるという大胆な計画を実行に移していく物語。オリジナルである2008年のフランス映画『すべて彼女のために』の骨子を活かしつつ、ハリウッドならではの重厚なスケールと、より明確な真実の提示が、全く異なる魅力を持つ作品に仕上げている。
作品の完成度
本作の完成度は非常に高い。特に評価すべきは、前半の静謐な人間ドラマと後半の怒涛のサスペンスアクションが見事に融合している点。前半は、妻の無実を信じて法廷闘争に奔走するジョンの姿を丹念に描き、絶望の淵に立たされた彼の葛藤と決意を丁寧に描写。この心理的な積み重ねがあるからこそ、後半の脱獄計画が単なるアクションではなく、愛する家族を守るための必死な戦いとして観客に訴えかける。
物語の終盤、フラッシュバックによってララの無実がはっきりと明かされるという構成は、観客を感情の頂点へと導く巧みな演出。しかし、その後に続くラストシーンが、この作品を単なるサスペンスで終わらせない。真実の証拠であるボタンが、刑事に見つけられることなく雨に流されていくという展開は、無実が証明されるべき社会の不条理を鋭く描き出す。家族は逃げ切って平穏な生活を手に入れるものの、真実が公に明かされることはないという、虚しさと皮肉が混在する余韻が、本作の完成度を一層高めている。
監督・演出・編集
監督ポール・ハギスの演出手腕が光る。前作『クラッシュ』でも見せた、複数の登場人物の視点を巧みに織り交ぜる手法が本作でも健在。ジョンの視点だけでなく、彼を追う刑事や、獄中のララの心情も細やかに描写することで、物語に奥行きを与えている。特に、ラストシーンにおける刑事の視点での描写は、観客に真実を突きつけながらも、救いと不条理を同時に感じさせる。後半の緊迫した逃走劇では、カット割りの速い編集と効果的なカメラワークで、観客の心拍数を上げる演出に成功。観客を飽きさせない緩急のつけ方も見事。
キャスティング・役者の演技
主演、助演の演技が作品を支える重要な要素。
• ラッセル・クロウ:ジョン・ブレナン役
平凡な大学教授から、愛する家族のために手段を選ばない男へと変貌していくジョンを熱演。当初の戸惑いや恐怖、焦燥感をリアルに表現し、感情の揺れ動きを丁寧に演じている。特に、脱獄計画に必要なアイテムを手に入れるために犯罪に手を染め、精神的に追い詰められていく姿は、観客に強い共感と緊迫感をもたらす。彼の体格の変化も役作りの一環であり、平凡な市民が極限状態に追い込まれていく様を説得力のある演技で体現。彼の繊細かつ力強い演技が、本作の重厚なテーマを深く掘り下げている。
• エリザベス・バンクス:ララ・ブレナン役
無実の罪で投獄され、絶望に打ちひしがれる妻ララを演じる。夫の深い愛に支えられながらも、過酷な刑務所生活で精神的に追い詰められていく姿を迫真の演技で表現。出番は多くないものの、その存在感は絶大で、彼女の悲痛な叫びや、夫の決意を知った後の心の変化を繊細に演じ、観客に強い印象を残す。特に、投獄後の憔悴しきった表情は、ジョンの脱獄計画の動機を強力に補強。
• ブライアン・デネヒー:ジョージ・ブレナン役
ジョンの父親ジョージを演じる。息子を深く愛し、その行動を心配しながらも理解を示そうとする複雑な心情を見事に演じている。彼の存在は、ジョンが孤独な戦いの中で唯一の拠り所となるものであり、物語に深みを与えている。短い出演シーンながらも、その温かさと威厳を兼ね備えた演技は、観客に深い感動を与える。
• リーアム・ニーソン:デイモン・ペニントン役
脱獄の専門家として、ジョンに助言を与える元脱獄犯デイモンを演じる。わずかな出演時間ながらも、その圧倒的な存在感と説得力のある演技は、観客の記憶に残る。彼のアドバイスが、ジョンの計画のリアリティを高める重要な要素となっている。彼の出演は、物語の鍵を握る重要な役割を果たし、作品全体のサスペンス性を高めている。
脚本・ストーリー
脚本はポール・ハギス自らが手掛け、フランス映画の緻密なプロットを忠実に踏襲しつつ、アメリカ映画らしい娯楽性を加味。主人公がごく普通の人物でありながら、綿密な計画を練り、予想外のトラブルに直面しながらも、妻への愛を原動力に乗り越えていくストーリー展開が秀逸。終盤のフラッシュバックにより、観客に真実を明確に提示しつつ、ラストシーンでその真実が公にされないという皮肉な結末を用意する構成は、観客に深い余韻を残す。
映像・美術・衣装
ペンシルベニア州ピッツバーグの街並みを効果的に活用した映像が印象的。暗く、重厚なトーンで統一された美術は、物語の緊迫した雰囲気を増幅させている。特に、刑務所のシーンや夜の街での逃走シーンは、そのリアリティと美しさが見事に融合。衣装は、登場人物の日常性とキャラクターの心情を反映するようなリアリティのあるものが選ばれており、ジョンが次第に身なりを構わなくなる様子も、彼の精神的な疲弊を表現している。
音楽
音楽は、ティム・バートン作品で知られるダニー・エルフマンが担当。彼の音楽は、過度な感情表現を避け、ミニマルでサスペンスフルな雰囲気を創出。特に、後半の逃走劇では、緊迫感を煽るようなパーカッションとストリングスが効果的に使用されている。主題歌は特に設定されていない。
アカデミー賞または主要な映画祭での受賞・ノミネート
本作は、アカデミー賞をはじめとする主要な映画祭での受賞・ノミネート歴は確認されていない。しかし、そのクオリティの高さから、多くの映画評論家や観客から高く評価された隠れた名作である。
作品 The Next Three Days
監督 ポール・ハギス
120×0.715 85.8
編集
主演 ラッセル・クロウB8×3
助演 エリザベス・バンクス B8
脚本・ストーリー オリジナル脚本
フレッド・カバイエ
ギョーム・ルマン
脚本
ポール・ハギス A9×7
撮影・映像 ステファーヌ・フォンテーヌ B8
美術・衣装 ローレンス・ベネット B8
音楽 ダニー・エルフマン A9
冤罪過ぎじゃない?
全力投球
面白かったけど…
ラッセルクロウ頭良すぎ!!
ラッセルの行動原理おかしくないか?
日本ではまずありえないクライムサスペンスですね。
妻が冤罪で投獄されるなら、全力で冤罪を晴らす方向に進むべきなのに、なぜかラッセルは妻の脱獄→国外逃亡を目指すようになっていく。
その行動力たるや、殺人も厭わずというから凄まじい。相手がたとえ地元のギャングでも、彼らにも子供や家族がいるだろうに。
映画の構造的に、ラストまで妻が無実かどうかはボカシてあり、そのために観客は強いフラストレーションを感じます。ラッセルは、たとえすべてを敵に回しても、妻を守り抜くということでしょうね。
最終的には「ああ、こういうこと?」という決着を見ますが、映画の中でのハッピーエンドはありません。
冒頭で、妻がこっそりクスリを打っている描写も、実は糖尿病のインスリンで、何ら日常から逸脱していないのに、あたかも妻は薬物中毒で、衝動的に殺人を犯しても不思議ではないという伏線のように働きます。
ラッセルが計画を練っていき、綿密にリハーサルを繰り返す様には巧妙に伏線が張ってあり、決行してからの逃亡劇は最後まで息が抜けないような展開に仕上げてあります。そこは見事です。
どうやら、この映画は妻の無実を信じて疑わない男の、手段を問わない行動力と、それが破滅に向かうのか成功するのかの瀬戸際を行ったり来たりする様をハラハラドキドキしながら見守る映画にしたかったようです。
だったら、観客がもっとラッセルに感情移入できるようにストーリーを展開するべきで、そのためには、ラッセルに強い動機が不可欠です。
妻が無実であると確信していること。
子供がいじめられ日常生活が全く破綻してしまっていること。
警察が無能で初動捜査に問題があったこと。
などをきちんと描いて欲しかった。
いずれにしても、この作品では複数の殺人が語られますが、どれも犯人が捕まらないという、クライムサスペンスとしては何とも後味の悪い仕上がりとなっています。
私は、いただけませんでした。
2014.6.4
ダメな人の逃走劇にはスリルがある
ママ友が犯人⁈
救われないよ!
思った以上に良作
オリジナルのほうを知らないが、思った以上に良作。
冤罪と脱獄というサスペンスの二枚看板をテーマにしたシナリオが秀逸。前半はすこしだるいが、中盤あたり計画を練りはじめるあたりからおもしろくなる。
で、たぶん一番この作品のよいところは、最後までひっぱりがあること。冤罪かどうかの真相を明らかにせず、途中であきらめるのではないか、逃亡は成功しないのではないか、という線を残している。だから、最後まで緊張感が途切れない。
そして、すんごいハッピーエンド。すれまくって素直に観れない自分なんかにはこれこそ予想外だった。ラスト刑事の推理シーンで冤罪を明らかにするわけだが、最後まで丁寧な編集で余韻も心地良い。
ヒューマンドラマ的
絶望に生きるより、狂気に生きる
さすがハギス監督!!
人間ドラマの方に良さを感じます。
無実の罪で投獄された妻を救うため、主人公が脱獄を企てる物語。
ラッセルクロウ主演のサスペンス。
鑑賞前は、ヒーロー物に近い映画だと思っていましたが、普通の市民が妻を救うために奔走するストーリーでした。
犯罪に縁遠い主人公が「ネットで情報を拾い」、「麻薬取引を繰り返すことで犯罪者と連絡を取り」、脱獄の計画を練り進めます。
ただ、サスペンスと言うよりは、人間ドラマとしてのレベルが高いと思います。
「夫婦愛」は勿論、「妻と子」、「主人公と両親」。派手さはありませんが、しっかりと描かれていたと思います。特に、クライマックス直前の高速道路のシーンは秀逸でした。
ただ、サスペンス映画として観ると、やや抑揚を欠いた印象をもちます。例えば、無実を証明する捜査を別に動かす等すれば、より重層的に描けたように思えます。
また、比較的荒唐無稽を排除してリアルに描いた印象ですが、普通の市民が脱獄計画を立てること自体が荒唐無稽なので、違和感をぬぐい切れません。やはり単独ではなく、最低限のブレーンのような人物を置いても良かったように思います。主人公の孤独感がなくなると、人間ドラマが薄くなるので、諸刃だとは思いますけど。
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