劇場公開日 2015年3月14日

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「魂の打ち震えるような母の泣き崩れ方といったら半端なものではありません。思わず号泣してしまいました」唐山大地震 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5魂の打ち震えるような母の泣き崩れ方といったら半端なものではありません。思わず号泣してしまいました

2011年2月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 何と大号泣のための専用テッシュを配るというなかなか親切な試写会でありました。主催者の粋な計らいに、苦笑しつつも、ものの見事にラストでこのテッシュのお世話になるくらい泣かされる作品となりました。

 中国の地震災害と言えば、四川省の大地震が記憶に新しいところです。しかし、それよりも約30年前に起こった唐山大地震のほうが、100万大都市での災害だったため、今世紀最大の被害者を生み出してしまいました。本作は、実話を元に作られた感動巨編です。
 地震映画といっても、本作の場合冒頭の数分しか地震のシーンは描かれません。地震そのものは、僅か23秒。しかし地震により生き別れてしまった主人公の兄妹は、再開するまで32年もかかってしまいました。
 本作のポイントは、地震パニックよりも、地震により生き別れになった家族の絆の強さ、そして再開の感動を綴った作品と言えます。そのなかで時間と共に復興してしてゆく唐山市の映像を挿入して、地震により命を失った24万人もの唐山市民を鎮魂する映画となっていました。

 ヒューマンドラマがメインといっても、地震のシーンはおざなりではありません。とんぼの異常発生シーンや空が茶褐色に染まるシーンからはじまり、次々にビルが崩壊。地割れの逃げ惑う人々が吸い込まれていくシーンは、多少CG臭いものの、迫力満天です。
 地震発生後の見せ場は、生き埋めになったドンとダーの主人公兄妹のうちどちらか一人を選ぶという究極の選択を迫られるシーン。片方を助けると、その分もう片方に負荷が集中して犠牲になってしまうという状況だったのです。
 母親のユェンニーは、泣く泣く兄のダーを選択して、助けてもらうのです。しかし妹のドンを見殺しにしたという自責の念にその後の人生をずっと囚われてしまい、32年間も心を閉ざしてしまうのでした。
 ユェンニーの号泣ぶりは、迫真の演技で、見るものの魂を鷲づかみにします。このシーンでも素晴らしかったのですが、もっと凄い演技があったことは後ほど触れます。

 その後人民解放軍が支援に入って、救援活動に入ります。ここもそうですが、全編むを通じて人民解放軍の宣伝臭が漂います。軍の協力を仰がなければいけないシーンが多かったので、仕方なかったのでしょう。すると突然死んだはずのドンが生き返ります。ちょっと都合が良すぎるのですが、彼女が生き返らないとこの話が成り立たなくなるので、深く考えずに次へ(^_^;)

 一方失意のユェンニーの元には、義母がダーを、強制的に連れ去ろうと訪れてきました。夫や家を無くしたままでは、子育ては無理だと判断されたためでした。さりとて、ユェンニーは夫や娘の魂が宿る唐山の地から一歩も離れようとしなかったのです。
 義母がユェンニーを言い含めて、ダーを路線バスに乗せて去っていくなかで、ユェンニーは泣き崩れています。バスのなかでは、義妹が義母に、「ダーがいなくなって、あの人は生きていけるのだろうか。」と尋ねます。
 突然バスが止まりました。バスから一人の少年が降ろされます。そしてユェンニーの元に駆け寄り、ふたりは固く抱き合います。良いシーンでした。
 本作では、思いがけない展開に、自然な演出で何度も泣かされてしまいます。最近の韓国映画に泣けなくなったのは、次第に演出が過剰になって、計算づくになってきたからかも知れません。

 さて、物語はその後のダーとドンの成長を描いていきますが、少々冗長で、眠くなりました。印象深かったのは、ユェンニーがプロポーズされても再婚せず、ドンが経済的に成功して新居を買っても引っ越そうとしませんでした。
 ユェンニーは、死んだ二人の魂がいつでも戻ってこられるよう、ガイド役として、まるで地縛霊のように唐山の古い住宅に住み続けたのでした。

 一方のドンは、人民解放軍夫妻の元に養子として引き取られていました。わが子同然に愛されつつ育てられるところは、なかなか感動的。けれども付き合っていた彼氏から堕胎を勧められたとき、地震のトラウマから拒否。シングル・マザーとなること選んで家出をしてしまいます。
 その後カナダ人の弁護士と結婚し、カナダに移り住んでしまいます。なかなか交わらない兄妹の接点に、少々イラつきました。何でドンは積極的家族を捜そうとしなかったのでしょう。疑問に残るところです。

 やがて時は2008年に。四川省で大地震が発生します。このシーンもなかなか迫力がありました。
 中越地震で神戸の人たちが多数救援に駆けつけたように、唐山の人たちも救援団を結成して、大挙押しかけたのです。財力のあったダーは、唐山救援団のリーダー的役割を果たしていました。
 ニュースで大地震を知ったドンも、医学生だった自分の知識を活かしたいと夫に直訴し、中国に帰国します。救援のなかで、かつての自分とダーが味わった究極の選択に迫られた母親が号泣しているのを見て、記憶が鮮明に蘇ってきます。
 するとそばで唐山救援団のメンバーが談笑しているなかで、自分の震災したときの話を話している若い男がいるではありませんか。ダーでした。
 次のシーン、いきなりダーが自社の観光バスにドンを乗せて、唐山市内を案内し、母親の元に向かっている場面に切り替わってしまいます。感激の兄妹再開のシーンが、カットされているのは多いに不満でした。しかし、それには訳があったのです。

 ユェンニーの自宅では、ごく自然にダーの嫁と談笑していました。そこへドンが何食わぬ顔で戻ってきます。いつもと同じように。ここまで、何事もなかったような抑制の演出が、憎いところです。ここから監督は一気に勝負に出ます。
 ユェンニーがふと気付くと、一人の女性がダーと並び立っています。そして一瞬で気付くのです、ドンだと。そして、冷やしたトマトをドンに渡します。このトマトにやられましたねぇ~(:_;)。震災前、トマトの数が足りなくて、やむを得ずドンに我慢してもらっていたのです。その後も辛い役回りをさせて…。ずっとそのことを気にしていた母は、いつでもトマトをドンに食べてもらおうと、ずっと欠かさず用意していたのでした。トマトは32年間の無念さのシンボルだったのです。

 このときの一瞬の間の取り方、そして魂の打ち震えるようなユェンニーの泣き崩れ方といったら半端なものではありません。監督は、ここを目指して全体を仕掛けて、あえて兄妹再開シーンを避けたのでした。素晴らしい演出です。
 昨年の『クロッシング』以来、久々に号泣してしまいました。

 ラストに、実際に震災で家族を失った人が登場し、24万人の実名が記名された長大慰霊碑が描かれるところが印象的でした。唐山・四川でお亡くなりになった方の冥福をお祈りします。

流山の小地蔵