劇場公開日 2011年5月7日

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「死にゆく国で生を問う」星を追う子ども 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5死にゆく国で生を問う

2012年11月24日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

興奮

知的

自然に囲まれた田舎町で母親と2人で暮らす少女アスナは、奇怪な怪物に襲われそうになった所を不思議な少年シュンに助けられ、心惹かれる。
シュンは突然姿を消し、失意のアスナの前にシュンそっくりのシンが現れる。
誘われるように、アスナは地底世界アガルタへ…。

アニメ界の俊英、新海誠監督作品。
短編「ほしのこえ」、長編「雲のむこう、約束の場所」、中編「秒速5センチメートル」…登場人物の丁寧な心情描写と詩情溢れる美しい映像で見る者を魅了。
再び手掛けた長編作で描いたのは、アニメ映画の王道とも言える異世界(地底世界)での冒険物語。
単に胸躍る娯楽作と思ったら、少々肩透かしを食らう。
孤独な少女が自分自身を見出す成長物語と少年少女の淡い恋が繊細に綴られる。

そしてもう一つ、生と死。
舞台となる地底世界アガルタは死者を生き返らせる事が出来る伝説がある。
だがアガルタは文明が荒廃し、死にゆく国だった。
そんな死にゆく国でアスナは自分自身を模索し、生きる意味と意義を見出す。
一方、アスナと行動を共にする教師モリサキは、過去に愛する女性を亡くし、彼女を生き返らせる為、盲目的にアガルタを探し続ける。
そしてそれを達成したかと思えたが…
生者よりも死者を選び、欲と死に取り憑かれ、生きる意味も意義も見失う。
その対比が哀切漂う。

新海誠監督らしい繊細な描写と美しい映像、独特の世界観で物語れ、一本のアニメ映画として標準以上の出来だと思う。
この作品をジ○リと比べる評が多いが、比べるのは愚かな見方だ。

(2011日本アカデミー賞アニメ映画賞でノミネート漏れ。「コクリコ」「けいおん」「ブッダ」は分かるとして、この作品を差し置いて「豆富小僧」「コナン」が挙がるとは…。いつもながら日本アカデミー賞の選考基準を疑問視してしまう)

近大