劇場公開日 2011年6月18日

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「大自然に抗ったちっぽけな人間の勝利宣言」127時間 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0大自然に抗ったちっぽけな人間の勝利宣言

2011年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

怖い

興奮

痛いのはキライだ。ましてや痛い結末を知っているから、ぜったいに敬遠したい映画だ。それでも、たったひとりで、たったひとつの岩と闘うだけのストーリーをどう料理するのか観てみたい。痛さより映画ファンとしての好奇心が勝った。

マルチ画面による導入部、大都会の中でアーロン・ラルストンは出掛ける準備を進める。母親から電話が入るが無視だ。はやくもアーロンの性格が垣間見える。
蛇口の水がボトルの口から溢れ出る。この水が、後日、舌で舐め取るように1滴もなくなるのだ。水が、この噺の時系列を表す。この水の扱いが、映像といい音といい映画的なテクニックを駆使してみせる。
舞台となるユタ州ブルー・ジョン・キャニオン。何百万年、いや何千万年ものあいだ堆積と浸食が繰り返されてきた赤褐色の岩肌が広がる。いったいどうやってできたのか、異形の光景に目を見張る。日常の喧噪を忘れ、自然が織り成す創造物に接するアーロンは、水を得た魚のようにエネルギーに満ち溢れ輝いている。
だが造形美とは裏腹に危険が潜んでた。一瞬の判断ミスが事故を呼び起こす。
いよいよ127時間、5日と7時間の闘いが始まる。
画面にはアーロンと右手を挟んだ岩石しかない。
127時間は、彼が岩山の亀裂に閉じ込められた時間ではない。食料は愚か水も無い。彼の人生の残された時間がたった127時間なのだ。
この時間の中でいったい何ができるのか、右手を挟む岩石の上に持ち物を並べ使えるモノがないか冷静になったと思えば、幻覚を見て助けを叫んでみたり、これまでの人間関係を悔いてみたり・・・。だが、持ち前の明るさが彼を死の淵から呼び覚ます。
小回りが利くビスタサイズのカメラが追った、前半の奔放な自由人アーロンの生き方が伏線となって蘇る。
大自然の中のちっぽけな人間。ずっと彼は挑戦してきた。自分で切り落とした岩石に挟まれた右手をデジカメに収める行為は、大自然に抗ったちっぽけな人間の勝利宣言だ。

マスター@だんだん