トスカーナの贋作のレビュー・感想・評価
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切なくて苦い、大人のラブストーリー
久しぶりに見たキアロスタミ作。
人の顔を大写しにする画面の切り方が多いせいか、なんだかドキドキする。
鏡とか窓に相手を映り込ませる方法も印象的。
アメリカ映画には興奮が、ヨーロッパ映画には物語もしくは人生がある……と改めて思った。
途中、話が大転回するシーンで、「え? どういうこと?」と大混乱し、思わず最初から見直した。
そうしてみると、なんだか腑に落ちなかった表情や会話が一気に納得できる。
疑似夫婦の贋作を見抜けるか?
キアロスタミが母国イランを離れ、外国語で撮った長編第1作。スマートな大人の男女が、オシャレな街で繰り広げるスタイリッシュなラブ・ロマンス・・・と思っていた、観るまでは・・・。陽光ふりそそぐトスカーナのロマンティックな街並みは、おおよそキアロスタミらしくないなぁ・・・と思いつつ、のほほんと観ていると、キアロスタミの仕掛ける罠にまんまと嵌ってしまう。これは間違いなくキアロスタミ作品だ(笑)。
贋作についての新作を発表したイギリス人作家(映画初出演のオペラ歌手シメル。見た目もスマートだが、声が魅力的)が、講演先のトスカーナで知り合った地元でギャラリーを経営するフランス人女性と知り合う。ドライブに出かけた2人が、カフェの女主人から夫婦に間違われたため、そのまま疑似夫婦を装うことになる。知的な2人の会話は、芸術や贋作のことから夫婦間にあるべき愛情のことへと発展していく。長年連れ添った夫婦間の不満などが、互いの口からほとばしり、この2人が本物の夫婦に思えてくる。果たしてそうなのか?虚実(本物と贋作)が入り混じる中、おそらく2人が交わしている会話の”中身=感情”は本物なのだろう。女は感情的に行動し、男は冷静でいながらもついつい女のペースに巻き込まれてしまう。女は男のために装ったりなどして魅惑的だ。男は女の態度に苛立ちつつも時に優しくいたわる。
贋作は見るものの感情により左右されると説く作家。真実も然り。女は妹の吃音の夫の話をする。「何が真実なの?」と問う女に、彼女の妹の夫が妻を呼ぶ言葉「マ、マ、マリー・・・」が真実だと男は答える。偽装夫婦のタイムリミットが近づく夕暮れ。新婚旅行の思い出の場所と称するホテルの一室で女は男に言う「行かないで、ここにいて。ジェ、ジェ、ジェームズ・・・」と・・・。
2人が本物の夫婦であれ、贋物の夫婦であれ、彼女の言葉こそが「真実」なのか・・・?戸惑う男の背後の窓から、タイムリミットを知らせる鐘の音が鳴り響く・・・。
本物とコピーとの差とは?
ジュリエット・ビノシュとウィリアム・シュメルのほぼ二人芝居のようなストーリー。
夫婦を演じる二人。でも、本当に演じているのか? もしかしたら本物の夫婦ではなかったのか? イタリアのトスカーナ地方の片田舎を舞台に、訪れた作家とギャラリーの女主人が町を散策しながら交わす会話が全てである。
始めは他愛の無い会話から、少しずつ男と女の本音が語られていく。
まるで本物の夫婦のように・・・。
新婚旅行で泊まったホテルの同じ部屋に入り、窓の外の景色の変わらなさを話しながらも作家は時間を気にする。
だが、その時も過ぎていく。
二人はいったいどっちなのか?本物なのか、コピーなのか。
ジュリエット・ビノシュはプロ。
ウィリアム・シュメルは素人。
その二人の組み合わせ。
本物とコピー、それらを区別するものは何か?
意味深なラストで終わる。
観終わってもまたすぐ観たくなっている、魔法の映画!
一言でいえば中年のおじさん、おばさんが夫婦のふりをしてぶらぶら散歩するお話。
最初は仲良し夫婦だったのに、だんだんお互いの結婚生活の不満があふれ出し、ぶつけ合い、喧嘩になって…
こんなにも男の言い分、女の言い分、が本音で生々しく描かれている映画は初めて見ました。
男から見ためんどくさい女ってこんな風に映ってるんだ、とか、女から見たわからずやな男ってこんな風に映ってるんだ、って自分を反省したくなってしまいます。
何十年も一緒にいても、会ったばっかりでも、“わかってくれない”って思うということは、男と女はやっぱり別の生き物で、わかり合うことはできないんじゃないかと思い知らされる。
でもわかり合えなくても、思いやることができればずっと一緒にいられるってことも気づかされる。
結婚とは?男と女って??夫婦とは???本物と偽物の違いとは????などなど、トスカーナを一日ぐるぐるまわって旅をしながら、頭の中もぐるぐるまわってしまう、そんな不思議な映画です。あと2~3回くらい観たいなぁ。
まだまだ結婚という世界に足を踏み入れるまでにだいぶかかりそうな私にとってはいい人生勉強になりました。
必見!だけど、いったん映画の世界に入り込んでしまうと、お互いの不満が噴出して帰りには喧嘩になりそうなので、同性同士かおひとり様で観に行くのがいいかもしれません。笑
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