「今作の最たる悲劇は、母親と呼べる女・父親と呼べる男が1人も存在できなかった事」八日目の蝉 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
今作の最たる悲劇は、母親と呼べる女・父親と呼べる男が1人も存在できなかった事
前代未聞の赦されざる重罪に対し、
「赤ちゃんを残し外出した森口瑤子も悪いが、奪い取った永作博美はもっと悪い」
という単純な感情は禁句である。
むしろ、そんな想いは邪念として、簡単に振り払い、世界観に引き込まれてしまう。
永作、井上、2人とも望まれない命を宿した母親である共感性に尽きるからだ。
“この宿無き揺りかごに果たして愛は存在していたのか?”
封印された遠き記憶を紐解こうと井上真央が事件現場を辿る度に、答えを見失い、空白の4年間の長さに打ちのめされる。
そして、全てが蘇った時…。
自然と涙がこぼれ落ちた。
なぜ泣いたのかは、未だに不明確のままだ。
それは、最後まで井上真央にとって、永作博美は愛すべき相手でも憎むべき相手でもない人物のままやったからやと思う。
うやむやな後味の重さは、客自身の母親への感情と照らし合わせている気がしてならない。
母の日を前に、フィクションとはいえ、彼女の可能性を応援したくなる5月の帰り道であった。
では最後に短歌を一首
『愛奪ひ 宿失き嵐 産み堕とす 懺悔ぶつけし 揺りかごの壁』
by全竜
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