「人間なんて口先1つで成功もすれば、失敗もする。身分は二の次である」英国王のスピーチ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
人間なんて口先1つで成功もすれば、失敗もする。身分は二の次である
頂点であるはずの立場の人間が、己の弱点をさらけ出し、トレーニングに明け暮れる様を、上下関係無く斜めから捉えていくイギリス独特の人間描写が健在しており、終始、気楽に嗜むことができた。
普段は紳士なのに、いざ話すと、ドモってしまう国王のアタフタしたキャラクターは、同じくイギリス映画の傑作『ワンダとダイヤと優しい奴ら』のマイケル・ペイリンを思い出し、笑顔が零れる。
スピーチで咬みまくって恥をかいても王の権威を保とうと強がったり、落ち込んだりする焦りが妙に人間っぽくて親しみやすい。
コーチ役の胡散臭いカウンセラー(ジェフリー・ラッシュ)、周囲が呆れる中、常に優しく見守ってくれる王妃との人間関係もユーモラスで、言葉はチグハグでも息のあったキャッチボールが交わされ、興味深かった。
個人的にはもう少し笑いの色が強くして欲しかったけど、歴史ドラマの観点からやと、あれぐらいのバランスでちょうど良かったのかもしれない。
実娘のエリザベス女王がダイアナ妃の交通事故に悲しむ『クイーン』でもそうだが、誇り高き王室だからこその苦悩を大胆にかつ、繊細に映画として作り上げる洋画界の度胸と、それを認める王室の懐の深さは凄いと思う。
皇室のスキャンダルが未だにタブー視されている日本では到底考えられない。
イッセー尾形が昭和天皇を演じた『太陽』が限界であろう。
国の存続を揺るがす危機に、マイクに立ち、国民を説得する責務を負った主の立場は、東日本大震災に襲われた現代の日本の管総理に重ね合わせてしまい、仕方なかった。
ある意味、失った権威を取り戻す絶好の機会だったわけだが、情報に振り回され右往左往するばかりで、一貫性が無く、結局、総理のスピーチには勇気どころか落胆するばかりだった。
本気で国家で立て直そうとする意志はあるのだろうか?
んまぁ、
「津波は天罰だ」と言い放った石原慎太郎よりはマシか…。
口は災いの元であると改めて感じたところで短歌を一首。
『乱の道 つか(仕)へど言葉 咬み(神)死なん(指南) マイクに向かふ 冠の下(舌)』
by全竜