「近未来の出来事でないところが怖い」わたしを離さないで マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
近未来の出来事でないところが怖い
予告篇を見れば、特異な寄宿学校で暮らす生徒たちの生い立ちと、その目的はおおよそ見当がつく。本篇でも隠さない構成になっており、シャーロット・ランプリングが怪しげな空気を発散しつつも、早い段階で秘密は暴かれる。
この作品は隠された秘密を暴くミステリーものではなく、未来を奪われ未来を決定づけられながらも、この世で賜った生を懸命に全うしようともがく若者達を捉えたヒューマン・ドラマだ。
少年時代のトミーはよくイジメにあう。だが、イジメも未来があってこそだ。未来のないイジメは虚しい過当競争に過ぎない。何をやったところで、皆、同じ運命をたどるのだ。
造られた肉体とはいえ、彼らは肌のぬくもりを持っている。度重なる手術で命尽きたとき、もう用はないとばかりに医者は縫合もせずに手術室を出て行ってしまう。特定の人種に対する冷淡な行為は、なにやらアウシュビッツに重なるものを感じる。
どんなに抗っても運命から逃れられない医療の裏社会。これが近未来の出来事ではなく、もう数十年も前から行われているという設定が逆に怖い。
自らの宿命に憤りを感じながらも、“終焉のとき”を受け入れる道しか選べない3人の姿に、その代償で救われ手に入れた命とはどれほどの意味があるのか。医療と倫理の狭間に投げ掛けられたメッセージは、人類への大きな宿題と化す。
子役がいい。とくにキャシーの子供時代を演じたイジー・メイクル・スモールは、キャリー・マリガンへの繋がりが抜群だ。
キーラ・ナイトレイは相変わらず同じ表情しか出来ない。
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