「救いのない連鎖が最高に不快で最高に魅力的。」冷たい熱帯魚 まっちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
救いのない連鎖が最高に不快で最高に魅力的。
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『冷たい熱帯魚』はただの猟奇事件をなぞった映画ではなく、人間の中に潜む怪物性を暴き出す一本だった。
主人公・社本は一見「気の弱い中年男」として描かれる。だが物語が進むにつれて、彼は村田の狂気に巻き込まれるだけの被害者ではなく、もともと内側に眠っていた暴力性や支配欲を少しずつあらわにしていく。妻を殴るシーンに至っては、もはや「感染」や「洗脳」ではなく、社本自身の本性が解放された瞬間にしか見えなかった。
だからこそ終盤、社本が暴走していく展開は恐ろしくも納得できる。優しい顔をしていた人間が、状況次第であっけなく怪物になる――そこにこの映画の本当の恐怖がある。
そしてラスト、娘の手で父が刺される場面は、「狂気は連鎖する」という監督の冷酷なメッセージだろう。救いのない結末なのに、どこか滑稽さを帯びていて、観客は笑うしかなくなる。まさにブラックユーモアと地獄の融合。
『冷たい熱帯魚』は観る者を不快にさせながらも、人間とは誰しも怪物になり得るという普遍的な問いを突きつける。後味は最悪なのに、強烈に記憶に残り続ける。
この矛盾こそが、本作の最大の魅力だと思う。
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