義兄弟 SECRET REUNION : 映画評論・批評
2010年10月19日更新
2010年10月30日よりシネマート新宿ほかにてロードショー
ストイックなカン・ドンウォンと意外に繊細なソン・ガンホがベスト・マッチ
少々無理な設定でも強烈な存在感で納得させてしまうソン・ガンホの力業が炸裂している。「義兄弟」で演じているのは北朝鮮工作員逮捕に失敗して国家情報局をクビになった男。何が何でも自分の手柄にしようという強引な行動はクビになって当然なのだが、ソン・ガンホの手にかかると、功利的な上司に反抗して組織を飛び出した一匹狼に見えてしまうから面白い。
そして、彼がクビになった事件に関わり潜伏している北朝鮮のスパイがカン・ドンウォン。こちらは、 暗殺を命じられて躊躇したり、北に人質同然に残してきた妻子を案じて苦悩したりと、キャラクターが丁寧に描きこまれている。終始ストイックな表情を崩さないカン・ドンウォンと見かけに似合わず意外な繊細さも見せるソン・ガンホがベスト・マッチ。
2人は偶然の出会いを利用して有意義な情報を得ようとするのだが、お互いに、相手の素性を知っているのに知らないフリを通す。その探り合いは時にコミカル、時にサスペンスフルで、2人の間に目に見えない絆が生まれ育っていくドラマに引き込まれた。
日本だったらフィクションとしか思えないスパイの設定も、韓国では実にリアル。つい先日も、亡命していた元朝鮮労働党書記の死が報じられ、事故死か、暗殺かと話題になったばかり。脱北者の暗殺が日常レベルで起こりうる現実を改めて実感した。ラストはやりすぎという意見もあるが、明るく終わりたいという作り手の気持ちも理解できる。
(森山京子)