ドアーズ まぼろしの世界 : 映画評論・批評
2010年10月26日更新
2010年10月30日より新宿武蔵野館、シアターN渋谷ほかにてロードショー
ジム・モリソンが何を表現しようとしたのかを描いたドキュメンタリー
ダニエル・ジョンストンは好きだが「悪魔とダニエル・ジョンストン」は要らない。ブライアン・ジョーンズタウン・マサカーは好きだが「DIG!」は要らない。だが、ジム・モリソンの一ファンとして、本作は手に入れたい。
なぜなら、この映画はジム・モリソンがどんな人物だったかではなく、ジム・モリソンが何を表現しようとしたのか、ジム・モリソンが象徴するのはどのような概念なのかを描こうとしているからだ。なので、映画に使われるのはジム・モリソンが生きていた時代の映像のみ。ドキュメンタリー映画にありがちな、現在の関係者による証言は登場しない。有名なエピソードでも登場しないものもあるが、それは本作のテーマにとっては不要だからだと分かる。
そうやって描き出されるジム・モリソン論は、けして斬新なものではなく、ファンの大多数が共有するものだ。それは本作の監督もそれを共有するファンのひとりだからだろう。映画は、ジム・モリソンではなく、彼のファンが彼を通して見たいものを映し出していく。だから、何度も見たくなる。コアなファンは新発見がないのが不満かもしれないが、その代わりに、未公開だったジム自身が撮ったフィルムの挿入という、嬉しいオマケが付いている。
あたりまえのことだが、ドキュメンタリーは、創作である。事実の記録ではなく、ただ創作の素材として記録映像を使っているだけだ。そんなことを改めて再認識させてくれるのも痛快だ。
(平沢薫)