劇場公開日 2010年9月25日

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「テレビドラマで充分の企画」恋愛戯曲 私と恋におちてください。 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0テレビドラマで充分の企画

2010年9月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 はっきり言って、テレビのトレンディドラマ向けの企画。あえて映画化する価値はないと思いました。舞台が原作とはいえ、映画化するのであれば、登場人物の葛藤にエピソードを追加して厚みを持たせて欲しかったです。

 本作と比較するなら、同じ脚本にまつわるトラブルを描いた三谷幸喜の『ラヂオの時間』という作品があります。本作のなかの劇中劇と同じ設定で、普通の主婦が脚本に抜擢された結果、途中で辻褄が合わなくなってしまうが、生放送中なのでやり直しが効かない。急場を凌ぐ形で、様々な設定を変更して辻褄を合わせていった結果、メロドラマは大スペクタクル映画のようになっていくというストーリーです。
 この作品もそうですが、同じ舞台出身の監督ということで比べれば、三谷作品の方が伏線も多用に散りばめ、ラストの収束に向かっていくドタバタのエネルギーが、ものすごくパワフルなのですね。
 そういう点で、本作をみれば、テレビ局の社運をかけたドラマ製作なのに、イマイチ緊張感に欠けます。それどころか当の制作局なんて当初から未完になることを想定して、看板プロデューサーを降ろして、全くドラマ制作に経験のない向井を担ぎ出し、責任を負わせようという設定だったのです。
 向かいのトーシローぶりはともかく、映画にするのならもう少し三谷流にパニックを大きくして、井上順が演じる超お気軽な上司の中川制作部長をもっと困らせるべきでしょう。追い込み方が甘いため、予定調和に見えてしまうのです。

 本作は、大物脚本家・谷山真由美の才能が枯渇して、全く書けなくなったピンチを、新米プロデューサー向井の誠心誠意なサポートを受けて、奇跡的な完成を見るというストーリーです。
 恋をしなければ筆が進まないという真由美は、初対面の向井に「私と恋に落ちてください」とぶしつけに言い放ちますが、もう殆ど強制恋愛の状態。面喰らう向井であったが、次第にお互いが、人生停滞中の閉塞感を持っていて、そこから這い上がりたいという共通の目標を分かち合うようになってからは、次第に惹かれ合う関係になっていくというよくある展開なんです。
 強制恋愛が、普通の恋愛感情に変わっていくわけですが、どうも決定的なきっかけとなるエピソードが弱くて、見ていてどうせ最後はそうなるのはわかっているから、そんなものだろうという感じなのですね。
 もう一つ、劇中劇と劇中劇で描かれるドラマ(3層構造のストーリー進行はまるでインセプションみたいです。)が凄くチープなのです。とても人気脚本家の作品とは思えませんでした。

 それでも出演陣は頑張っています。劇中劇と劇中劇で描かれるドラマで主演する深キョンは、三者三様のキャラを巧みに演じ分けていました。ただキャスト的に小悪魔キャラの真由美役は、綾瀬はるかの方が、もっと感情表現のメリハリが強くなった気がします。

 また二枚目の役どころが多い椎名桔平は、真面目で気弱な三枚目を好演。今までにない頼りなさそうな味を出していました。彼の演技で見所は、真由美が脚本執筆を諦めてしまったとき。このとき突如として大人しかった向井が吠える台詞には、痺れましたね、魂がこもっていたワンショットです。

 最後に、窓際族からいきなりドラマプロデューサーに抜擢されてしまった向井ですが、そんな無謀な人事を強行した中川部長には、ある打算があったのです。それは向井が隠してきた過去の秘密。
 しかしこの付け足しは余計です。過去に何らかの実績を残した人であるとしたら、狭い業界で隠し通せる訳がないのです。蛇足のような過去の秘密は、なかった方がすっきりしたと思いますが、皆さんはいかがでしょう?

追伸
 劇中、高ビーな真由美に向井がチョットでも意見しようとしたら、真由美はものすごい癇癪で黙らせようとします。同じように、本作でも鴻上監督に何とか意見しようとしたショウゲートのスタッフのご苦労が忍ばれますね。

流山の小地蔵