「現代が生んだ、家族の物語」スプライス ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
現代が生んだ、家族の物語
「CUBE」でその名を世界に知らしめたビンチェンゾ・ナタリ監督が、「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディを主演に迎えて描く、ひねくれ者のためのSFパニック作品。
「子供が生まれたから、親になるのではない。親は、子供が生まれてからゆっくり親になっていくのだ」どこかの評論家が語っていた。理解不能、制御できない謎の生物として眼前に現れてくる「赤ちゃん」という「何か」。
人間はその異質の生き物に触れ、努力して理解し、愛していく。だが、皆が皆、心から「何か」を愛せるわけではない。怖い、気味が悪い・・そんなものに愛を捧げられない親が、いる。
本作は、テーマとして遺伝操作による新種の怪物を生み出した科学者の顛末というサスペンス映画として配置されているが、純粋にそのモンスターを退治するという展開が用意されていない。
むしろ、どうやってこのモンスターと生きていくか、どう向き合えば良いのか・・この試行錯誤と愛情の発生が主軸に置かれているように思えてならない。
それはそのまま、制御不能、未知の生物として突如出現する「我が子」に戸惑う親の姿が重ね合わせられている。不気味な風貌をしたモンスター「ドレン」だが、ぎりぎりのところで人間の面影を残し、完全に気色悪い生物としての認識を拒絶している。
甘え、緊張、愛情・・様々に人間のもつ感情の片鱗を与えられた怪物に、ホラーとして恐怖一色となるのを恐れる視点が見え隠れする。喜怒哀楽を巧妙に物語に植えつけた先にあるのは、「親子」という遺伝子の連鎖。
接触と拒絶、排除の段階を経ても、そこに残るのは「親」と「子供」という最終的に逃れられない繋がりへの違和感と、諦め、そして覚悟。子育てを物語に組み替え、現代的な遺伝子という要素を持って再考を訴える極めて奇妙奇天烈な家族映画だ。無理は、ある。変態の要素も、ある。だが、冷静な現代家族観への提唱と肯定の姿勢も、ある。