「【81.9】ステキな金縛り 映画レビュー」ステキな金縛り honeyさんの映画レビュー(感想・評価)
【81.9】ステキな金縛り 映画レビュー
映画『ステキな金縛り』(2011) 批評
作品の完成度
三谷幸喜監督が長年温めてきたという構想を、コメディ、ファンタジー、法廷劇という複数のジャンルを巧みに融合させたエンターテインメント作品。荒唐無稽な「幽霊が証人になる」という設定を軸に、法廷という舞台で起こるユーモラスな出来事をテンポよく描き出している。全体を貫くのは、「目に見えないものを信じること」という普遍的なテーマであり、観客に笑いと感動の両方をもたらすよう構成されている。ただし、キャラクターの多さやストーリーの複雑さが、一部で冗長に感じられるという意見も散見される。観客を飽きさせない工夫として、随所にちりばめられた小ネタや、豪華キャストによるカメオ出演など、ファンサービスも手厚い。長編としてのまとまりはありつつも、もう少し物語を絞り込むことで、より洗練された作品になった可能性も感じられる。
監督・演出・編集
監督・脚本は三谷幸喜。彼特有の舞台劇的な演出が随所にみられる。セリフの間合い、役者の動き、そして観客を笑わせるための絶妙なタイミングは、まさに舞台のそれ。特に、幽霊である更科六兵衛が法廷に現れるシーンでは、彼が見える人と見えない人のリアクションの違いをコミカルに描き出し、視覚的な面白さを生み出している。複数の登場人物の会話が同時に進行する三谷作品ならではの演出も健在。編集については、物語の進行に合わせてテンポよくシーンが切り替わるものの、全体の上映時間が142分と長尺であるため、後半にやや間延びを感じさせる部分があることも否めない。しかし、法廷劇としての緊張感とコメディとしての軽快さのバランスを保ち、観客の感情を巧みに揺さぶる演出は秀逸である。
キャスティング・役者の演技
三谷幸喜作品の真骨頂とも言える豪華キャストが勢揃い。それぞれの役者が自身の個性を生かしながら、キャラクターに命を吹き込んでいる。
・主演:深津絵里(宝生エミ)
失敗続きで人生のどん底にいる三流弁護士を、等身大のキャラクターとして魅力的に演じている。幽霊の存在を信じ、真実を追い求めるひたむきな姿は、観客の共感を呼ぶ。コミカルな芝居から、法廷での真剣な表情まで、幅広い感情表現を自然にこなし、物語の中心として確固たる存在感を放つ。特に、唯一の理解者である六兵衛との間に築かれる友情は、彼女の繊細な演技によって深く心に響くものとなっている。彼女の演技が、ファンタジーという荒唐無稽な設定にリアリティを与えていると言っても過言ではない。
・主演:西田敏行(更科六兵衛)
落ち武者の幽霊という非現実的な役柄を、圧倒的な存在感と愛らしさで演じ切っている。見た目の威圧感とは裏腹に、世間知らずで純粋な心を持つ六兵衛のギャップを巧みに表現。時にコミカルな表情や仕草で笑いを誘い、時に421年間の孤独を感じさせる切ない眼差しを見せる。深津絵里とのユーモラスで温かい掛け合いは、本作の最大の魅力の一つであり、彼でなければ成立し得なかった唯一無二のキャラクターと言える。第35回日本アカデミー賞では優秀主演男優賞を受賞するなど、高い評価を得た。
・助演:阿部寛(速水悠)
エミが所属する法律事務所のボス。一見頼りないが、実はエミを陰ながら支える心優しい人物。軽妙な語り口と飄々とした佇まいで、作品に独特のリズム感を与えている。彼が登場するたびに、物語の空気が一気に和らぎ、観客を笑顔にさせる。彼の存在が、エミの奮闘をより魅力的に引き立てる重要な役割を担っている。
・助演:竹内結子(矢部鈴子)
資産家の妻を殺害したとされる被告人の妻。夫の無実を信じ、エミに弁護を依頼する。夫を深く愛する健気な女性を、細やかな表情の変化で表現。後半の展開における重要な伏線を担う役柄であり、物語にミステリー要素を加える。彼女の演技は、法廷劇としての真剣さを作品にもたらす上で不可欠な要素。
・助演:中井貴一(小佐野徹)
六兵衛の証言を信じない敏腕検事。超常現象を一切認めない堅物で、法廷ではエミと対峙する。厳格で真面目なキャラクターを、顔の筋肉まで使ったコミカルな演技で表現。彼のリアクションが、六兵衛の存在を際立たせ、法廷でのやり取りをよりユーモラスなものにしている。彼の登場は、物語に緊張感と同時に、三谷作品らしいユーモアをもたらす。
脚本・ストーリー
「幽霊が証人になる法廷劇」という斬新なアイデアが、物語の核。事件の真相を解明していくミステリー要素と、エミと六兵衛の友情を描くヒューマンドラマが見事に調和している。単なるコメディに終わらず、「真実とは何か」「目に見えないものを信じることの尊さ」という深遠なテーマを提起。しかし、登場人物が多岐にわたり、物語の展開が複雑になりがちなため、若干の混乱を招く可能性も。全体としては、笑いと涙をバランスよく配置し、観客を飽きさせない構成となっている。第35回日本アカデミー賞では最優秀脚本賞を受賞。
映像・美術衣装
法廷のセットは、重厚感のある洋館風のデザインで統一され、非現実的な物語に説得力を与えている。落ち武者の幽霊である六兵衛の衣装は、時代劇的な雰囲気を醸し出しつつも、現代の法廷という場に違和感なく溶け込むよう工夫されている。美術や小道具の細部にまでこだわりが感じられ、三谷作品らしいユニークな世界観を構築。照明や撮影技術も、コミカルなシーンでは明るく、シリアスなシーンでは落ち着いたトーンで、物語の雰囲気を効果的に演出している。
音楽
荻野清子が手掛ける音楽は、作品の持つコミカルかつ温かい雰囲気を盛り上げる。特に印象的なのは、法廷のシーンで流れるクラシック音楽風のメロディ。緊張感と滑稽さの入り混じった独特の空気感を演出している。主題歌は、主演の深津絵里と西田敏行がデュエットした「ONCE IN A BLUE MOON」。物語の世界観を表現する歌詞と、二人の温かい歌声が、エンディングを感動的に締めくくる。
受賞歴
第35回日本アカデミー賞
最優秀脚本賞:三谷幸喜
優秀主演男優賞:西田敏行
優秀主演女優賞:深津絵里
第54回ブルーリボン賞
主演男優賞:西田敏行
作品
監督 三谷幸喜
114.5×0.715 81.9
編集
主演 深津絵里A9×2
助演 西田敏行 S10×2
脚本・ストーリー 三谷幸喜
B+7.5×7
撮影・映像 山本英夫 B8
美術・衣装 種田陽平 B8
音楽 荻野清子 B8
