ガールフレンド・エクスペリエンス : 映画評論・批評
2010年6月22日更新
2010年7月3日よりシネマライズほかにてロードショー
ソダーバーグの原点を想起させる瑞々しいガーリー映画
ソダーバーグ監督の多様なフィルモグラフィ中、長編デビュー作「セックスと嘘とビデオテープ」を想起させ、いわば原点に帰る試みといえる。全体から受ける印象としても不思議と(?)瑞々しいガーリー映画だ。
洗練されたサービスでガールフレンドと過ごすかのような時間をクライアントに提供することを売りとし、力強いが意外に脆弱でもある高級エスコート嬢が主人公。一流ブランドを身にまとってニューヨークを闊歩する彼女は、他方で恋人との関係や新たなライバルの台頭などに悩まされる。構想段階で予想もつかなかった経済危機の渦中に撮影され、即興的なクライアントとの会話のほとんどが“お金”にまつわるもの。お金で体を売る主人公を軸に資本主義の本質に鋭く迫る本作は、単に“ドキュメンタリー・タッチ”の映画ではなく、経済危機や大統領選挙が進行中のニューヨークをなまなましく画面に刻む。(お仕事ではない)“本当の君”を知りたい……とヒロインはたびたび要請されるが、たぶん彼女の中で仮面(演技、仕事)と素顔の区別はない。そもそも僕らは本物の恋と贋物の恋を明確に見分けられるのか。時に優等生すぎたり自身のテクニックに溺れたりもするソダーバーグだが、時間軸を複雑に切り崩す本作でのオシャレで完成度の高い編集は、いかにも自然と映るのに徹底して人工的な愛やセックスを描こうとする彼の課題と見事に合致するがゆえに僕らの目に心地よい。シリアスな題材なのにポップで、ストレートに肉体へフォーカスを合わせつつも完璧に知的……これはそんな快作である。
(北小路隆志)