「消化不良!役人はもっと仕事をしよう!」プリンセス トヨトミ こばこぶせんさんの映画レビュー(感想・評価)
消化不良!役人はもっと仕事をしよう!
「鬼の松平」も情に流されてしまうのかぁ…。
権力から独立した機関である会計検査院が聞いて呆れるぞ。
…というのが一番強く思ったことである。
原作を読みました。原作を読んで、世界観を広げたくて、どっぷりと浸りたくて見に行ったのだが、少し残念。
原作を読まない方が楽しめるかも。
文庫本にして550ページの長編だから、消化しきれなかったのかな?
原作を読んでいる時は、少し丁寧に書きすぎでは、と思った部分もあるが、最終的にはそれが効いてくるのだ。登場人物に深みが出て、読者が作品の世界に引き込まれるのだ。…けど、映画にするにはきつかったかな?
原作との設定変更がいろんなところでされていたので、原作読んでから行くと、少し違和感が残るかもしれない。
○原作では松平が大阪国を認めていく過程が腑に落ちたのだが、映画では無理ありすぎ。あれでは、有能な官僚ではなく、あらゆる権力から独立して「検査」するのではなく、ただ情に流されたおじさんになっている。「鬼の松平」としてもっと、「検査」に力を入れよう!もっと仕事をしよう!(5億円の使途もまったく見えないし…)
○空堀商店街が残念。「坂を抱く商店街」である空堀商店街が、あの作品では効いているのに、大阪人の行動力や意志の強さ、情の厚さをあの商店街が象徴しているはずなのに。あの商店街がどんな構造か知りたかったから映画を見に行ったのに…、あまりにも描かれなくて残念。
○鳥居さんはよい。とてもよい。設定変更も、綾瀬はるかのほんわかさに合っていてよい。ゲーンズブールが「松平さんは、なんで鳥居さんと組んでいるんですか?」って質問するけど、それは愚問である。原作のように仕事がバリバリ出来てって雰囲気が足りないのだから、しかも鳥居が小太りの男ではなく、スタイル抜群の若い女なのだから、全くの愚問である。ただ「ミラクル鳥居」が全くない。使えない人間に見えて、実は大変有能なので、人としての魅力もあるので「組んで」いるのである。しかも「ミラクル」である。それを、言葉で「ミラクル鳥居って言われている」と片づけても、廊下を歩く無防備な教員の話を耳にしたことだけでミラクルって言われても…全然納得できない。綾瀬はるかってスタイルいいなぁ、ってだけで終わってしまう。
○ゲーンズブールが何もしない。原作では存在感あったし、魅力的だったし、キーマンにはもちろんなるんだけど、映画ではまったくダメ。存在感ないし、仕事しないし、ただ黙っているだけ。後から、それっぽいことを口にすしてキーマンぶっているだけ。何もしないのなら、魅力的な女優を抜擢して、立たせておいた方が良かったのでは?
○茶子も何もしないなぁ。本当に何もしないなぁ。もちろんギラギラしていて生きがいいし、好感も持てるのだけど、大輔の方が目立っているなぁ。監督は大輔に焦点を当てたかったのかな。そしたら、タイトルおかしいなぁ。いっそのこと茶子がまったく出ない方が、タイトルは生きるなぁ。
○学者を出して、謎解きさせるのは楽なんだろうなぁ。原作では松平が調べまくっていたけど、映画では5億円の一部が使われている学者が登場し、少し(大したことのない)知識を与える。学者が抜け道のことやら何やら、いろいろばらしていたけど、大丈夫かな?あの人、大阪の人じゃないのかな?それとも父上様がまだご存命なのかな?
○原作読んだ時もそうだったのだけど、キャッチの「大阪全停止」は詐欺的だな。そこじゃないな。そこを期待したら、だまされた気になるなぁ。大阪全停止はいいのだけど、映画には大阪人以外の人は、鳥居しか描かれていないのかなぁ。電車が止まっても、食堂が止まっても、誰も困らない。観光客もビジネスマンもいない、それが大阪。
○桐の紋章がひょうたんの紋章に変わっていたのが気持ち悪い。作者は、豊臣の紋章と日本政府の紋章が同じってことあたりから作品を思いついたのかな?と思ってしまったくらい、桐の紋章が効いているし、印象的である。なのに、何故かひょうたん。政府からクレームがついたのかな?
○大阪人はアレで喜んだのだろうか。本作の舞台はなんといっても、大阪城、空堀商店街、大阪府庁、大阪府警であるはずなのに、出される映像の多くは、通天閣や新世界、道頓堀…しかも、口うるさいおばはん(おばはんはホテルのエレベーターに乗って降りていたけど、大阪の人なのか?他県の人なのか?)。大阪国の非常事態に大阪城に集結するならまだしも、なぜか(誰が知らせたのか)会談の行われる大阪府庁へ。そして映像に映る、阪神タイガースの法被…(ついでに言うと、誰かがなぜか所持しているピストル)。あまりにも紋切り型、ステレオタイプ。大阪の人は怒っていませんか?
和久井映見はきれいなおばさん役が似合うようになってしまった(泣)。
豪勢なちょい役(玉木宏や菊池桃子)と、綾瀬はるかの「ゆれ」を鑑賞したいならお勧めです。