「父と接する“時”を逃した男の物語」プリンセス トヨトミ マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
父と接する“時”を逃した男の物語
万城目学が原作の映画を観るのは「鴨川ホルモー」に続き2本目。「鴨川ホルモー」もそうだったが、登場人物の名前が歴史上の人物名とダブっていて面白い。財団法人「OJO(大阪城趾整備機構)」がある建物も“長浜ビル”という念の入れようだ。
原作は読んでいないので分からないが、豊臣家の末裔を亡き者にしようとする組織でも現れるのかと思って観ていたが、話はそんなアクションなど巻き起こさずに進んでいく。
それでも、大阪府民が守り続ける秘密のからくりが解き明かされていく展開には、下手なアクションより釘付けだ。
なんといっても大阪という設定が効いている。何百万人もの住民がこぞって秘密を守り続け、よその国民に気取られないよう日常を送るなんて、ほかの都市では考えられない。だが、あり得ないパラレルワールドも、大阪だったら「あるんちゃう」と思ってしまう。大阪には不思議なパワーを感じる。
ヘタをするとギャグになりそうな大阪国という発想を現実感あるものにし、観る者を納得させるのが地下の長い長い廊下の存在だ。
父から息子に託される“大阪の男”としての戒律。父が子に託す時期、その条件の最後を聞いたときは思わず涙が出る。
この映画のテーマは「父と息子」だ。おそらく原作のいろいろな部分をカットし、設定も変更が加えられているのだろうが、「父と息子」というテーマに重点を置き、色気を出さなかったのがいい。
キャッチコピーの『その日大阪が全停止した。』が作品の核ではない。
この作品は、父と接する“時”を持ち損なった男の物語である。
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