岳 ガク : インタビュー
「岳」片山修監督、主人公・三歩に小栗旬を推した理由とは?
累計380万部突破のベストセラー・コミックを映画化した「岳 ガク」。片山修監督は原作を読み、山を舞台にした人間模様、特に主人公・島崎三歩のキャラクターにほれてメガホンをとる決意をしたという。登山の経験はなかったが、自らの足で日本アルプス・奥穂高岳などの頂上に立ったことで撮影、演出のイメージを膨らませていった。三歩役にドラマ「花より男子」で気心の知れた小栗旬、ヒロインに長澤まさみを迎え、できる限り現地ロケにこだわった撮影を敢行。その奮闘努力は、山にかかわる人々の多様な人間ドラマとして結実した。(取材・文:鈴木元、撮影:堀弥生)
「岳」というタイトルから、山に関する作品であることは容易に想像ができる。片山監督も、臼井央プロデューサーから企画を聞いたとき、そう思ったという。だが、原作を読み進めるうちに、山岳救助ボランティアとして活躍する三歩を中心とした人間ドラマに重きがおかれていることに気づく。
「単なる山の映画じゃないなと思った。登場人物、特に三歩が遭難救助をするときに、ただ助けるだけではなく、その人(遭難者)のことを思い、その周りの人たちのことを思い助けている気持ちというのかな。それが最初にタイトルから持った印象と全く違っていたので、三歩という男にほれたというか、やりたいと思ったんです」
漫画原作のドラマの演出はこれまでも経験があるが、「岳」に関してはかなり思い入れが強かったようだ。
「漫画の良さは静止画の強さ。1枚の絵があって、読んでいる人がその前後を想像する世界なので、いろいろと差ができる。実写の場合は、それがすべてリアルに見えてしまうので、見ている人に『な~んだ、こんなふうになっちゃったのか』と思わせないようにするためにはどうしたらいいのかというのが一番考えたところ。特に『岳』は1枚の絵が非常に強いので、それを殺さず、かつ原作とは違う実写版『岳』だと植え付けるための努力はしました」
そのカギとなったのが、脚本だろう。原作は1エピソード完結のスタイルで描かれているため、1本の映画として成立させるためのドラマツルギーが重要になる。スタッフ間で時間を費やして議論を重ね、結果、単に三歩を“スーパーマン”として描くのではなく、新人として山岳遭難救助隊に入ってくるヒロイン・久美の成長を通して、三歩のすごさが見えてくる手法をとることになった。ここで、脚本の吉田智子の力が存分に発揮される。
「三歩をメインにすると、すごい男がただ救助するだけの話になってしまう。そうなると僕が読んだときの印象とはちょっと違う。もっと、山の中に人間ドラマがあるという印象を受けていたので、吉田さんのいろいろなエピソードをまとめて1本の2時間のドラマにする技量には驚きましたね。よくこの話をまとめたなと」
そして、三歩を演じる主演俳優には念頭にあった小栗を推した。決め手は、いい意味での不器用さだという。
「彼は、現場や芝居上で考えるというよりは、私生活からキャラクターになりきろうとしているんじゃないかな? 東京にいて、やると決まったときから一生懸命、三歩になりきろうとするので、どこにいても三歩のリアクションになる。そういう役者ってあまりいなくて、だからあれもこれもってならないんですよ。そこに集中するというか……没頭するというか……そういう純粋さが三歩役にぴったりだと。だから、三歩をやるなら、ぜひ彼にという話はしました。パーセンテージは大きくないですが、彼は体が大きいので、すごく頼りがいがあるように見えるというのも要因のひとつにはなっています」
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